こねた | ナノ
「成神のこと、どう思ってるの?」


学校で過ごす時間の中で、一番幸せなお昼ごはん中に、先生の話とか宿題の話とか、もうすぐ始まる夏休みの話とか他愛のない話をしていたはずなのに、私が美味しいからあげに気をとられている間に恋愛の話にすり変わっていて、そして私に話が振られてしまった。ふ、不覚…!

ゆっくりとお弁当から顔を上げると、冒頭の質問を投げ掛けてきた友人と他にお弁当を囲んでいたみんなの視線が遠慮なしに私に集まっていた。そして揃いもそろって、物凄くにやついているからたちが悪い。私も私で軽く受け流せればいいのに、成神くんと恋愛の話となればそうはいかないのだ。なんてバカ正直な人間なんだ私。


「し、知ってるくせに…!」


教室を素早く見渡して、成神くんがいないことを確認してからみんなを軽く睨み付ける。こんな会話を成神くん本人に聞かれてしまったら、私は蒸発して無くなってしまう気がする。


「えー?でもそろそろ進展があったりとかー、もしくは新しい恋が始まってたりとかするのかなあって思ってたわけよ!」


にやにやという効果音が後ろに見えるくらいの表情で私に話しかける友人たちに「進展もないし、新しい恋とやらも始まってません!」とクラスで談笑している人たちから注目を浴びない程度に声を押さえて言い切る。友人に伝えた通り、帝国学園に入学してから成神くんへ片想いを続けていることは今もまだ変わらない。新しい恋なんて始まるわけがないのだ。でも、進展がない、というのは少し嘘になる。さかのぼること二週間前。夏の始まりを知らせるような日差しのキツい日だった。

少しでも風にありつこうと、廊下の窓枠によりかかって「暑い…」とぼやく私に、ちょうど通りかかったらしい成神くんが、ほんと暑いよなあ、と話しかけてくれた。


「あ、う、うん…!」

「みょうじは暑いの苦手?」

「ちょ、っとね。でも夏は好きだよ!」

「奇遇だな。俺も。」


暑いのは苦手なんだけど夏っていうはっきりした季節は好きなんだよなーって、のびをしながら笑う成神くん。恋のフィルターってやつなんだろうか、私には成神くんがきらきら光ってみえた。


「あ、そーだ。アドレス教えてくんない?」

「え、あ…も、もちろん!」


成神くんが取り出した薄紫色の携帯と私の白い携帯が近付いて、お互いのアドレスが目に見えない電磁波に乗って行き来した。二人とも携帯にキーホルダーとか何もつけていないことに気付いて、指摘したら、寂しいからなんかつけたいなって成神くんが笑った。


「お、来た。さんきゅー、たまにメールしてもいいか?」


情けないことに私は、そう言ってくれた成神くんに首を縦に振ることしか出来なかった。だって、かっこよすぎたのだ。…と、まぁそんな素敵すぎる出来事があったわけで、私と成神くんの仲はちょっとだけ進展したのだ。メールも、成神くんが言ってくれたように、たまにする。あの日のことを思い出したらまた嬉しくて、幸せな気分になって携帯をぎゅっと握りしめた。



▼△▼△


「夏休み暇な日ある?デートしよう」


お風呂からあがったら、私の携帯にこんな文面のメールが来ていた。送信元は、成神くん。私は画面に釘付けになったまま数秒間固まってしまった。え?え、ええ?どっきんどっきんと異常な早さと勢いで動き出した心臓を押さえながら、壁に掛けてあるカレンダーに目をやる。三日後の日付についた印が夏休みの始まりを示していた。


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title 誰そ彼
せっかく書いたのになんかイマイチなお話になって残念。かっこいい成神リベンジしたい。
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