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帝国サッカー部は桁外れな強さを代々受け継いできたことと、周りから一切練習が見えないように作られているグラウンドのせいで、帝国学園に通う一部の生徒から誤解されている。もちろん悪い意味の方で。私は、みんなの目付きの悪さも少なからずそれを助長してるんじゃないかな…と思いながらもそんなことは言えずにいた。

以前、辺見くんと咲山くんの仲良しペアって目付き悪いよね……とついうっかり洩らした日には、辺見くんにグーで殴られて、咲山くんに頭をぐりぐりされた。もちろん軽くだけれど。しかも、理由はお互いに、こいつと仲良くねーしペアでもねぇ!というものだった。今思えば、それってお互い目付き悪いってことは自覚してるんだよね…。

話を元に戻すと、女の子にモテモテでもあるけれど、ある一部の女の子たちに敬遠されがちなサッカー部。噂によると、その子たちはサッカー部の誰かに告白して玉砕したという過去を持った人たちらしい。その子たちが集まって咲かせていた恋バナのネタが尽きたときには、十中八九サッカー部の悪口になる。そして今日、今、私の目の前でもそんな子たちの悪口のオンパレードが始まった。



「ウチのサッカー部ってさ、問題児を押し込んだ動物園らしいよ?」
「あはは!」
「でもほんと動物並みに本能で生きてるバカの集まりだよね」
「俺はボールをあっちに入れるんだ!!それだけの為に生きてるっ!みたいな?」


……我慢だよね。そう心で言い聞かせる。悪口というのはいつまでも慣れない。私だって嫌いな先生の悪口は言うし、意地悪されればあの子嫌な子だな、嫌いだなって思うし、友達に愚痴ったりもする。だから、嫌いな人たちの悪口をみんなで集まって話したくなるのも分かる。しかもここは体育のあとの女子更衣室。男子も、体育の男の先生も入ってこない安全地帯だからなおさら。でもこんな目の前で、それも大声で、大好きなみんなの悪口を言われたら、さすがの私だって怒りが込み上げてくる。



「てかサッカーがいくら強いからって俺様顔しすぎじゃない?」
「え?あんたサッカー部と関わりあったことあるの?」
「ないけど?想像だよ!想像!俺様って態度取ってそうじゃん?」


想像でものを言わないで欲しい。怒りで握りしめていたTシャツにさらに力がこもる。頭がぐるぐるとなって、この子たちに一言言おうかと考えると、心臓がばくばくと動く。そしてトドメの一撃。


「あんなクズの集まり、なくなればいいのにねー」


「…いい加減にしてくれるっ!?さっきから黙って聞いてれば…!好き勝手に…!想像で人の悪口を言えるほどあなたたちは出来てるエライ人間さんなんですか?どこが?どのへんが?本能で生きてるバカなサッカー部のマネージャーの私にも分かるように教えて頂けませんかっ!?」




        ▼


部活が始まる時間。私はみんなに会わせる顔がなくて、一人教室の椅子に机につっぷした状態で座っていた。悔し涙が机にまだ少し残っている。その涙を指で拭き取ると同時に誰かが教室の扉を開けた。


「ミョウジ…、ここにいたのか。部活始まる時間だぞ。」
「さ…きやまくん…。」


現れたのは咲山くんで、今の発言からすると、私のことを探していてくれたようだ。そうと分かると、さっきの自分の行動がもっと重く胸にのし掛かる。私のいつもと違う様子に気付いたのか、咲山くんが怪訝そうな表情で近寄ってきた。「具合でも悪いのか…?」今は咲山くんの優しさが痛い。


「ごめんなさい…」
「別に今から来れば部活間に合うぞ」
「違うの。」


私、みんなのこと大好きなのに、サッカーに一生懸命になるみんなが大好きで、そんなみんなをサポート出来るのが嬉しくて、……なのに、さっきサッカー部の悪口を言う女の子たちに何も言えなかった。言いたいことはあったのに、喉の手前まで出かかってたのに、結局私は自分の安全を選んでしまった。最低で最悪で汚い私。咲山くんは私の話を黙って聞いてくれた。もしかしたら、黙って聞いてくれたんじゃなくて、呆れ果てて何も言えなくなってるのかもしれない。…こんな奴がマネージャーなのかって。


「ごめんなさい…私…」
「謝んな」


厳しい声でぴしゃりといい放たれた言葉に驚いて、私が顔を上げると、そこには言葉の強さとは裏腹に、優しい目をした咲山くんがいて、私はもっと驚いてしまった。「どうでもいい。他のやつらが俺たちについて何を思おうが何を言おうが。」そう言い切る咲山くんの顔を見つめていると不意に手が伸びてきて、私の頭を二回ほど叩いた。


「お前が分かっててくれれば充分だろ。」


その言葉に不覚にもまた涙が出てきて、咲山くんには全力で呆れ顔された上に「ほんと泣き虫だよなお前」と言葉に出して指摘されてしまった。恥ずかしさを誤魔化すために、涙を強引にぬぐって、咲山くんにお礼を言えば、さっさと部活行くぞ、と背中を叩かれた。


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