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昨日から、なんか関節が痛いなあとは思っていた。でもまさか、目が覚めたら咳も鼻水も熱も出てて、風邪の症状をフルコンプリートしているとは…。私はベットにもぐり込みながら深いため息をついた。本当なら咲山くんの練習試合の応援に行くはずだったのになあ、悔しくて毛布を握りしめる手に力が入る。咲山くんの携帯に、風邪をひいたから応援に行けなくなってしまった旨を伝えるメールをしたのは今から十分ほど前。練習試合に出掛ける時間だから忙しいはずなのに、『わかった。ちゃんと寝て早く治せよ。おやすみ。』とメールが返ってきた。…なにこれ、男前過ぎない?咲山くんの気遣いが心苦しくて、でもやっぱり嬉しくて、頬がだらしなくゆるんでしまう。やっぱり咲山くんっていちいちかっこよすぎると思う。試合で咲山くんの練習の成果が出ますように、と願いながら私は目を閉じた。



「さき…やまくん?」

寝返りを打ちながら目を開くと、綺麗な緑色が目に入って、私が思わずここにいるはずのない人を口にするとその影はびくっと動いた。「起きたのか、脅かすなよ…」私の耳に届いた声は紛れもなく、咲山くんのもので、私はパジャマなのも忘れて勢いよく起き上がる。ばか、起き上がるな。と咲山くんが慌てるのを見つめながら私は「どうしてここに咲山くんが?」と疑問を率直にたずねた。まだ練習試合してるはずじゃ…と目を向けた壁の時計の針は自分が目を閉じた時よりずいぶん進んでしまっていた。


「…その様子だとずいぶん熟睡してたみたいだな。」
「あ、うん…そうみたい…。」


咲山くんは、お前のお母さんに上がってけって言われたから…と言いながら私の隣にやってきた。咲山くんが私の家にいるのは別にそんなに驚くことではない。付き合い始めたばっかりの頃にお家デートをしたとき、お母さんが咲山くんをすごく気に入ってしまったから。それ以来、咲山くんは結構な頻度で遊びに来たり、ご飯を一緒に食べたりしてる。


「俺が部屋入った時、いびきかいてたくらい熟睡してた。」
「ええ!?嘘!」


思わず咲山くんの方に身を乗り出すと、咲山くんは目を細めて「嘘だ。」と笑った。一瞬必死になってしまった恥ずかしさと咲山くんの意地悪な表情がかっこよくて熱くなる頬に、いつの間にか咲山くんの手があてられる。はっとして顔を上げると、真剣な顔をした咲山くんと目が合って、だけど一瞬で逸らされた。「熱は下がったみたいだけど寝とけ。」と私に指示するその顔は、ほんのりと染まっていて私は思わず笑ってしまった。そしたらすごい顔で睨らんできたから、言い付け通りベットにもぐり込んだ。あ…でもひとつ聞き忘れてた、大事なこと。


「あの、咲山くん…試合は…?」
「…勝った。」
「そっか…!よかった!」


次は絶対咲山くんのかっこいい姿見に行くからね!と笑いかけると、咲山くんはその前にさっさと風邪を治せ、バカ。とそれはそれはかっこよく言ってのけた。風邪っぴきの私への特効薬は咲山くんみたい、なんて言ってみたらどんな反応をしてくれるのかなあ、と想像してちょっと笑ってしまった。


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企画「オーライ」提出
title 誰そ彼

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