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秋先輩は、チームのみんなの気持ちを切り替えさせるのが上手いし、てきぱきと仕事をこなしてしまう。春奈ちゃんは元新聞部なだけあって鋭い目線でみんなが気付かないようなところに目をつけたりしてチームの力になっている。夏美先輩は色々手配してくれたり……まあ…あの…い、いるだけでチームの士気が上がるよね!


「はあ……」


…それに比べて私は…いったい何をしてるんだろう…。私は夏美先輩みたいなお金持ちじゃないし、春奈ちゃんのように情報を集めたり出来ないし、秋先輩みたいにうまくおにぎりを握ることすら出来ない。


「私も…チームの力にならなきゃ駄目なのに…!」


ミョウジさんはミョウジさんの出来ることからやればいいんだよ、と言ってくれた秋先輩の言葉を思い出して私は一人拳を作った。



◆◇



「や、やっぱおにぎりくらいはうまく握れるようになろう!」

イナズマキャラバンの私には豪華すぎるキッチンで、私は一人おにぎりを握りはじめた。あんまり作っても無駄になってしまうから、私は一つずつ丁寧に作ることにした。それでも大きくなったり、小さくなったり、何故かひし形になったりしてしまったけれど、前に作った時より、綺麗な形になって、塩加減も分かってきた気がする。


「5つも作っちゃった…」


一人では食べきれないなあ、と考えていたら、おにぎりを握るのに集中していた時には気付かなかった音が聞こえてきた。それはどうやらボールを蹴る音のようで…。気になって音の方へ近付いてみる。


「よし!ドリブル突破でやんす!」
「行かせねぇ!」
「木暮!後ろには俺がいるから!」
「お、おれだってやってやるっスよ〜!」


そこには、夜だというのに練習するみんなの姿があった。


「みんな……」
「あ、ミョウジさん!」
「栗松くん…壁山くん、立向居くん…それに木暮くんまで…」


みんな、練習してたの?と聞けば立向居くんがにこっと笑って、はい!と元気よく答えてくれた。それに続いて栗松くんが、キャプテンたちと一緒に闘うために俺たちがもっとレベルアップしなくちゃいけないでやんすから!と胸を叩く。木暮くんは少し照れくさそうにしながらも、フィールドに立てば、年下とか関係ないしな、と呟いた。


「ミョウジさんはこんな遅くまで何やってたっスか?」
「あ……え〜と、その…」
「寝てる奴らにラクガキか?」
「ちっ違うよ!私は…お、おにぎり握る練習してたの!」


やけになってそう言うとみんなは、ポカーンという顔をした。…そりゃそうだよね…おにぎり握る練習ってなんだよって感じだもんね…。しかし壁山くんだけは目をキラキラと輝かせた。そして私にずいっと近寄る。


「ミョウジさん!まだおにぎりあるっスか!?」
「え…あ、うん。あるにはあるけど…」
「食べたいっス!お願いするっス!!」
「でも……」
「そう言えば俺も腹減ったでやんす…ミョウジさん駄目でやんすか?」
「う…駄目じゃない、よ…」


二人の熱意に押されて、私はキッチンからおにぎりを持ってくる。形悪いし…やっぱ見せたくないなあ…木暮くんにはきっと馬鹿にされちゃうだろうし…。ため息をつきそうになるのをこらえながらみんなにお皿をつきだす。


「は、はい!い、言っとくけど形三角じゃないし、見た目悪いし、あ、味の保証とかない、から…ね…?」
「うまいっス〜!!」
「うん。本当に美味しいよミョウジさん!」
「丁寧に作ったでやんすね!見れば分かるでやんす!」
「ま、……かたちは悪いけどさ、前食ったときよりは上達してんじゃない?」
「み、みんな…」


私が味の保証はないと言いかけている途中からおにぎりに手がのびてきて、みんなが私の握ったおにぎりを口にしていた。みんなの言葉が嬉しくて、じわりと滲んだ視界。お前も食ってみろよ!と木暮くんに言われて、私も最後のおにぎりに手をつける。


「うん…おいしい…。」
「自分で言ってちゃ世話ないな…いてっ」
「木暮は一言余計だぞ」
「みんな…ありがとう…私、もっともっと頑張って頼れるマネージャーになるね!」
「俺たちも、頑張るっス!」


次の試合も頑張ろう!立向居くんの突き上げた拳に、私たちも声を合わせてそれに続いた。


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