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いつもゴールの前でギラギラと目を輝かせて、飛んできたボールに対して、ひとつも逃がしはしない!というように構えている源田くんはかっこいい。だけど、今のこの姿はどうだろう。


「か、かわいい……!」


思わず口から飛び出してしまった言葉に自分でも驚いて、慌てて周りに誰もいないことを確認する。今日は、いつも最後まで残って練習していく鬼道くんも佐久間くんも用事があるとかで早めに自主練を切り上げてしまったから源田くんは一人で練習していたんだろう。源田くんは一人で居ると、あれこれ深く考えて無理をしてしまうところがあるから、夢中になって練習していたのかもしれない。彼は部室の机と椅子でぐっすりと眠ってしまっていた。

一生懸命で真面目で、毎日私が部日誌を書き終わるまで、「自主練しているだけだから」という理由まで立てて、待っててくれる優しい源田くん。そんな源田くんへの想いでゆるゆると暖まっていく体温を感じながら源田くんに近寄る。

いつもは見下ろすことなんて出来ない源田くんの頭をゆっくり撫でてみる。なんだか新鮮。寝顔をもっとよく拝んでおこう、と屈んでみたら予想以上に顔が近くなってしまって、私は一人で勝手に心拍数をあげていた。


(ちゅーしても、いいかなあ、)


そんな不埒な考えが頭をちらついて離れない。目を閉じている姿も、規則的に動く背中も、頬の下に置いてある手も、すべてが可愛くて、私を引き寄せる。可愛いすぎる源田くんが悪いんだもん!と責任転嫁もいいところ、な言い訳で私はゆっくりと顔を近付けた。しかし唇がふれあう寸前で源田くんが目を開けた。


「げ、源田くん…!あのこれはそのっ…!」


私がしどろもどろになりながら言い訳しようとしていると、フッ…と微笑んだ源田くんが私の頬に手を添えた。


「続きは…してくれないのか?」


妖しく光る瞳に吸い込まれるような感覚がして、私は源田くんに近付いた。触れ合った唇は燃えるように熱くなる。離れると、源田くんは椅子から立ち上がり私を見下ろした。「まだ足りないな、」そう言って私を見つめる源田くんの目は試合中のようにギラギラとしていた。

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