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いつもは、今日のお夕飯はなにかなあ…から始まり、明日のお弁当はハンバーグが入ってたら嬉しいなあ、というまさに色気より食い気な話で終わるナマエと俺の帰り道。でも、今日はまだナマエの口から食べ物の話が出ていない。どうしたんだ…?変な物でも食べたのか?と声をかけようとすると、


「なんで佐久間くんのこと、好きなんだろうって私考えてみたの。」


ナマエがぽつりとつぶやいた。俺はナマエが突然口にした話題に反応しきれず、「あ、あぁ」となんとも間抜けにその話しに応えた。そんな俺のはっきりしない言葉を受けてからナマエは小さな声で続けた。


「よくわかんなかった…」


…よくわかんなかったのか…。ナマエの言葉に若干拍子抜けしつつ、それを誤魔化すように鞄をかつぎ直した。俺がそれにどう反応すれば正解なのか分からなくて、黙っていると、「佐久間くんは分かる?」と逆に聞かれてしまった。

(……いや、分かるわけないだろ。)

心の中で冷静にツッコみつつ、うーん…とそれっぽく唸ってみせる。唸りながら、よくわからなかったっていうことは、ナマエは理由もなく俺のことを好きってことなのか…?と勝手に思い巡らしていると、いつの間にやら、空いていた右手をナマエに取られた。目をやるとそこはしっかり繋がれていて、「へへ〜、私から手繋いじゃった!」とナマエが笑った。……何故お前は質問の途中で手を繋ぐんだ…。


「佐久間くんってば照れてるね」
「………。」


ナマエの予想もつかない言動に少々呆れながらも、照れていることは間違いなかったから、否定出来なくて黙ると、ナマエは、でもねぇ……と口を開いた。


「なんで佐久間くんのこと好きなのかよくわかんなかったけど……私、佐久間くんとこうやって一緒に帰るのも、手を繋ぐのも、よくわかんないけど好きなの。だからね…」


理由がない好きっていう気持ちもありなのかなあって思ったんだ。へへーん、と効果音が付きそうなくらい得意気に言ってみせたナマエが可愛すぎて、俺も、その理由がない好きってやつをたった今、実感した。



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title誰そ彼


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