inzm | ナノ

まじかよ…。心の中で思わず大きなため息をついてしまう。広い部室の真ん中の方にある長椅子に横になって、気持ち良さそうに寝ているミョウジを見たら、ため息の一つもつきたくなるのも分かってもらいたい。俺に関係ない女がある意味公共の場である部室の椅子で寝ているだけなら、俺は特になんとも思わないかもしれない。いや、確実に思わない。でも、ミョウジなら話は180度変わってくる。彼女の寝顔なんて他の男に見せてたまるか。

ひとつ年下のミョウジはこんな感じでゆるいやつだから、授業中はグースカ寝ていて他の奴に寝顔ばかりを見せているのかもしれないが、俺の目の届く範囲ではやめていただきたい。源田とか普通に頭撫で回しそうだし、成神なんか調子のってキスとかするんじゃないだろうか、バレなきゃいいよな!とか言って。


一人で考えてムカついてきた俺は、つかつかとミョウジに歩み寄る。隣にしゃがみこんでも起きる気配はない。幸せそうに寝ているのを見ると、起こせなくなる。そうしてしばらくミョウジの寝顔を見ているうちに目の前の唇に無意識に目がいくようになる。


(……バレなきゃいいか、俺彼氏だし。)


さっき成神で同じことを想像してムカついていたことなんか忘れて、ミョウジの口の端にキスしてやった。幸せそうな表情は変わってなくて、俺はミョウジの頭をひと撫でして部室を出た。



◇◆


「咲山せんぱーいっ!練習お疲れさまでっす!」
「ああ。……寝癖ついてるぞ。」
「えっ!?」
「冗談。」
「び、びっくりしたあ…あ、でも先輩、ここだけの話ですけど、私さっき部室で少し寝ちゃったんです!」
「へえ、それ堂々と先輩に向かって言うことか?」
「咲山先輩だけですよ!それで、えっと…」
「……。」
「咲山先輩にキスされちゃう、幸せな夢を見まし…た。えへへ、あの、でも現実でもして欲しいなあ、なんて」
「はいはい。」


今日のキスは俺とミョウジの中ではカウントがひとつぶんズレてんだよな、と思いながら二回目のキスを落とした。



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キスという単語に照れてしまう自分が気持ち悪い


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