inzm | ナノ やっと部活が終わって、私は後片付けを始めた。室内のフィールドにいても分かるジメジメとした空気に、やっぱりまだ雨が降ってるんだなーって少し憂鬱になる。梅雨ってやっぱり嫌いだな、と一人でこぼしながら、ちょっとぬるい気がする水道の水で最後のボトルを洗う。


「よっし終わったー!帰るぞー!」
「一人言デカすぎだろ。」
「あ、佐久間先輩…」


大きな一人言を佐久間先輩に聞かれて、私の頬は、かあっと熱くなる。そんな私を笑いながら、佐久間先輩は後ろを向いて手を振って行ってしまった。さようならを言うタイミングを見失ってしまった…と思いながらその背中を見送り、はたと気付く。もう部室に誰もいない…!この広い部室で一人というのが怖くて、慌ててかばんを掴んでドアの外に飛び出すと、そこには予想外にも人が立っていた。


「うわあっ!」
「……。」


驚くわたしの前に壁に寄りかかった状態で腕を組み、立っていたのは無表情の咲山先輩だった。びっくりして、どきどきしていた胸が先輩の姿を認めたとたんにさらにどきどきし始める。


「あ、せ、先輩…!」
「片付け、終わったのか?」
「は、はい。」


私が何度か頷くと咲山先輩はおつかれさん、と目を細めた。そんな咲山先輩の表情に胸がきゅうと締め付けられる。


「……咲山先輩はどうしたんですか?」


まるで誰かを待っていたような先輩に、さりげなく聞いてみる。これで彼女を待ってるなんて言われたら私大泣きする自信がある…なんて考えながら返事を待つ。すると咲山先輩は、あー…と言いながら言葉を濁す。珍しい咲山先輩の態度に、私は言いたくないならいいんですよ、とだけ言って傘立てに目をやった。


「………あれ?ない、」
「…」
「あれ?私の傘ない!」


くるくると周りを見渡してみるけれど、今朝差してきたはずの私の傘は見当たらない。外に目を向ければ、かなり強めの雨が降り注いでいる。最悪だ…。そしてちょっと考えてみれば、咲山先輩が私の質問への答えを濁したのが、彼女を待っているからじゃないかと思いあたり、私はwショックで泣きそうになった。


「…ビニ傘ならさっき佐久間が持ってったけど。」
「………多分私のやつですねそれ。」


どうしようもなくなった私は咲山先輩をぼんやりと見つめる。佐久間先輩め……。この恨みは忘れませんよと心の中でぼやきながら咲山先輩に頭を下げた。


「じゃあ、失礼します。」
「は?」
「…え?」
「女がこの雨の中傘なしに帰ろうとすんなよ…。」
「す、すみません…。」


呆れた顔をした咲山先輩が(実際本当に呆れてるんだろうけど)大きなため息をついて背中を壁から離した。そして黒くて大きめの傘を取り出し、一言。「送ってく」


「へ!?あ、あの、さ、咲山先輩がわた…私を!?」
「嫌ならこのどしゃ降りの中濡れて帰ってもらっても構わないけど?」
「お、お願いします!!」


うわあ、咲山先輩と相合い傘…!その提案に私の体は急激に熱を持ち始める。先輩は手慣れた様子で傘を広げ、行くぞと私に一声かけた。慌てて私も傘に飛び込む。いつもでは考えられない近距離に頭がついていかない。変な臭いしてないかな、なんて考えて手に汗がじんわり滲む。


「先輩は誰かを待っているのかと思いました。彼女、………とか。」
「違ぇよ。まず彼女いねえし。…………帰ろうと思ったらお前が一人残ってんのに傘がねーから……気になった。」


彼女がいないということも分かって嬉しかったし、でもそれ以上に『気になった』という単語が飛び出したことに対して、別にそんな甘い意味が含まれていないことは分かっているけれど、先輩に恋するわたしを赤く染めるには十分な言葉だった。


「先輩…?」
「ん?」
「傘、ほんとうにありがとうございます。」
「ああ。」


左側にわずかに感じる咲山先輩の体温がすごく心地よかった。




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佐久間がわざと傘を使って咲山と相合い傘させたところが策略

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