inzm | ナノ
※佐久間がオトメンっぽい



「すきだすきだすきだすきだすきだ。」


呪文のように唱えると、正座する俺の前にちょこんと置かれたペンギンのぬいぐるみのペン太郎が困った顔をした気がした。はあ、だよな…。確かにお前は大のお気に入りで毎晩一緒に寝てるけど、俺が今すきだって伝えたいのはお前じゃないからな。俺の気持ち分かってくれてるんだよな…『その台詞は俺に向かって言うもんじゃないはずだろう?次郎よ…。』っていう顔してるもんなお前。やっぱペン太郎かっこいいわ!

一人自分の中で話を完結させ、ペン太郎のかっこよさに感動して両腕でぎゅううう、と抱き締めると、タイミング悪く部屋のドアが開いた。


「あ、じろちゃんってば、ぬいぐるみ抱き締めてる。」
「あ!ナマエ!?いや、これは違…っていうかノックくらいしろ!!」


くすくすと俺を見て笑うナマエを確認し、俺は慌ててペン太郎を放り投げる。ごめんな後で頭撫でてやっから!心の中でそんな風に謝っておく。ナマエは持っていたお盆をテーブルに置いて、ノックしなかったことについて適当に謝りながら、俺がさっきまで抱きついていたペン太郎に手を伸ばした。そして、両腕で抱き上げると、愛おしそうに頭をやさしく撫でた。


「駄目だよ優しくしなきゃ。」


ね?と可愛らしくペン太郎に向かって首を傾げるナマエを見て体温が急上昇。ペン太郎も勿論可愛いけど、ナマエはそれ以上に可愛い。そんなふうに考えている俺の顔は、きっと真っ赤なんだろう。ナマエが、今度は心配そうな顔つきになって大丈夫かと俺に尋ねたから。


「ぜ、んぜん大丈夫だ!」
「そう?ならいいけど。お母さんがね、お仕事で美味しいリンゴジュースもらったからじろちゃん家にお裾分けしなさいって。」
「あ、そ…。」
「はい、どーぞ。」


母さんがジュースをお裾分けに来たナマエを引き留め、ついでに寄ってきなさいとか言ったんだろうなと考えながら、さっきナマエが運んできたお盆に並んだ二つのグラスを見つめる。ナマエに差し出された方を受けとると、中に入っている氷が涼しげな音を立てた。何も言わなくても、グラスを付き合わせるタイミングがちゃんと合って、ナマエが乾杯、と嬉しそうに笑った。

黙ってごくごくと飲み干したリンゴジュースはナマエのお母さんが認めるだけあって美味しくて、素直に美味いなコレと感想をもらすと、ほんとだねえとナマエが頬をゆるませた。ああ、駄目だ。やっぱり言えない。すきだって言ったら、この関係はもちろんのこと、今のこの、ナマエと過ごす心地いい時間が消えてなくなってしまう気がするから。今日はやめて明日言えばいいじゃないか、そう逃げる臆病でへたれた俺をナマエの腕の中に収まっているペン太郎が睨んでいる気がした。


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