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「言う言わない言う言わない言う言わない……言う…!」


はらはらと重力に従って地面に向かう最後の花びら。最後の言葉は『言う』だった。言う、とは言わずもがな、ナマエにすきだと伝えることを指す。まじかよ…。と無意味に、残った茎の部分をぐるぐると回す。花びら占いで決めても結局足踏みするならやんなきゃよかったな、とついたため息。すると足元にサッカーボールがコロコロと転がってきた。


「…?」
「じーろちゃん!ため息なんかついてどうしたの?一緒に遊ぼうよ!」
「ナマエ…。」


サッカーボールを持ち上げると、にっこりと笑ったナマエが立っていた。今日は部活は珍しく休みだ。昨日、俺がぽつりと一人言のようにもらした言葉をちゃんと聞いて覚えていてくれたのだろうか。ナマエは、俺たちが小さなときからそうしてきたように俺の手を取り走り出した。小さいころはなかった俺たちの手の大きさや柔らかさの違いを感じながら俺もナマエについて走る。目指す場所は近くの公園だろうか。



▽▲



息を切らしたナマエが俺の前で膝に手をついた。「ちょ、た、タイム!」 苦しそうに息をするナマエを俺はベンチまで誘導して、近くの自販機で買ったスポーツドリンクを手渡す。ナマエはありがと。と言って一気に半分くらいを飲み干してぷはーと息をはいた。


「生き返ったー!」
「オッサンみたいだな」
「う、…だって……じろちゃんからボール取れなくて悔しかったんだもん。」


むー、と唸りながら俺の方を向いたナマエ。公園でボールを蹴り出して数分後、ナマエが俺に本気でやって!とリクエストしてきたから、本気でボールを操っていたら、それから何十分も経っていたようだ。ナマエはのんびりした見た目に反し、なかなかどうして運動神経がいいから、俺も時間を忘れていた。


「まあ…一応俺も帝国のレギュラーだから。」
「そうだよね、やっぱすごいなあ、じろちゃん。」
「………。」
「……じろちゃん、元気でた?」


は?顔を上げた俺の目の前にずいっと迫るナマエの顔。慌てて後ずさっても、ナマエが追ってくる。「な、何がだよ」あ、やべ、声裏返った。俺の返答を聞いてナマエはため息をついた。


「じろちゃん最近元気ないっていうか…悩んでるっていうか…余計なお世話かもしれないけど私、心配で…」
「ナマエ……。」
「サッカーしたら元気出るかなあって思ったの。」


全然じろちゃんの相手になれなかったけど。と弱々しく付け足された言葉。やっぱナマエはすごい。俺がナマエのこと好きになる理由がどんどん増えていく。俺がうつむくナマエの頭に手を置くと、2つの瞳が俺を見上げた。


「ありがとな…俺、決めたよ。」
「何を…?」
「お前に伝えたいことがあるんだ。」
「じろ、ちゃん?」


「俺、ナマエのことが……すきだ。」




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