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佐久間くんはすごくモテる。整った顔はとてもかっこいいし、中学の頃から続けているサッカーが上手くて、運動神経が抜群。それにちょっと悪ガキっぽいところがまたいいのよ!と佐久間くんのファンらしい女の子が話しているのを聞いたことがある。私と同じクラスで佐久間くんと同じサッカー部の咲山くんはその女の子に呆れ顔で「佐久間ァ?……ただのガキだろあいつ。」と一言。そしたら何故か佐久間くんファンが多い私のクラスの女の子達に酷く怒られてしまっていた。



ふわふわ明日に溶けちゃいたい



そして私も例にもれず、佐久間くんのファンの一人だったりする。でも熱い声援を送ったり、クッキーとかお菓子を何か手作りして渡したりは恥ずかしくてしたことはない。それに私、お料理は壊滅的だからなあ…。バレンタインデーにお父さんに手作りチョコをあげたら(しかも溶かして生クリーム混ぜて固めた生チョコ)来年からは大変だろうから、既製品でいいからな!と青白い顔で言われてしまったことが私のトラウマのひとつだったりする。だから、時々サッカー部を佐久間くん目当てで覗いてみたり、クラスの佐久間くんのファンの子達の話から漏れてくるうわさに耳をすましたり、そんな程度。


私の担任の先生はお花や植物が好きみたいで、教室の外にたくさんのプランターを置いてお花やトマトを育てている。そして何故か私に指名がきた植物係。まあ暇だしいいかな、なんて引き受けてしまったけれどこれがなかなか…………大変で、楽しい。今日も今日とてジョウロに水をたっぷり入れて、愛しのプランターちゃん達の元に向かう。そして端から水をあげようとジョウロを傾けた瞬間。「おい!そこ!あぶねぇ避けろ!!」「え、?」振り返った途端目の前が真っ暗になって物凄い衝撃。冷たさと痛さで目を白黒させていると私を黒い影が覆った。まだぼやける視界を頼りに顔を上げれば、そこにはあの佐久間くん。


「悪ィ!大丈夫か!?……って大丈夫そうじゃねーな…」
「あ、…だ、だ大丈夫…で…」


私がもごもごとしゃべる間に、佐久間くんは私に近寄ってしゃがみこんだ。そしてあろうことか頬を撫でたのだ。その意外にも優しい手つきに私はびっくりして佐久間くんを見つめてしまった。


「赤くなっちまったな…ほんと、ごめんな。」
「えっ……や、あ、あの、」
「しかもジョウロの水で結構濡れちまったし…」
「わ、わわわたしジャージ、も、もってる…から…!」
「そっか…。」


とりあえず立つか、と差し出された手に反射的に掴まってしまう。そして、軽々と私を引っ張って立たせてくれた。立ったら私と佐久間くんの距離が近くて何も言えなくなってしまった。そして佐久間くんが何かを思い付いたように、ちょっと待っててくれ!と駆け出していった。なんだろうと立ち尽くしていると、ダッシュで戻ってきた佐久間くんが私に真っ白なタオルを差し出した。


「今、こんなもんしか渡せねぇけど…本当ごめんな。あと、俺練習だから…じゃあな、ミョウジ。」


そして付け加えられた「毎日水やりお疲れさん」という言葉。私は佐久間くんの後ろ姿を見送ってから、へなへなと地面に座り込んでしまった。力の入らなくなった足腰と、どきどきばくばく動く心臓。佐久間くん…私のこと知っててくれたの?ぎゅっと握りしめたタオルから佐久間くんの匂いがした。



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title誰そ彼

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