inzm | ナノ
「っせーよ眼帯ハゲ!」
「ハゲてねぇーよ!むしろてめーのがハゲだ!
「おいやめろお前ら。」


当番だとか順番だとか知らねぇが、なんでこの俺がこの二人と買い出しなんか行かなきゃなんねーんだよ!そう悪態をつきながら始まった買い出しへの道のりが果てしなく感じる。俺と佐久間の真ん中を歩く源田は何が楽しいのかにこにこと今日は卵の特売日なんだ!と言った。いや、今から行くのはスポーツ専門店のはずだろうが。源田のボケ(本人は至って真面目の可能性が高いが)ツッコむ義務なんかねえし、めんどくさかったから黙っていると佐久間がぼそっと「スーパー行く予定ねぇよ」と言った。しばらく三人で黙って歩いていると、信号で止まったときに佐久間がふいに俺の方を見た。


「そういやさ…不動って彼女いんの?」
「かっ!?い、いるわけねーだろ!」


彼女という単語に少し過剰ぎみに反応してしまった俺を佐久間と源田は、にやにやと気持ち悪い顔で見ていた。それに対して、きもちわりい!と一言怒鳴り付けて青になった信号を一人でさっさと渡った。後ろから源田が迷子になるぞ。とかいう面白くもなんともないボケ(本人は至って真面目の可能性が高いが)をかましてきたから無視して歩いた。目的地はもう目の前だ。



「あ、あきおちゃんだ。」



そして俺は目的地を目の前にして今一番会いたくない奴に会ってしまった。俺が佐久間にさっきの質問をされて一番に頭に浮かんだ女。肩書き的には俺の幼馴染み兼彼女というポジショニングについている女。


「……ナマエ、なんでここに…。」
「いやー弟にパシられてさー」


パシられたくせに、にこにこと訳を話すナマエに自然とため息が出る。どーせ釣りでアイス買っていいぞとか言われたんだろうな…こいつのことだし。そう思っていたら案の定、お釣りでアイス買うんだーという間延びした声が聞こえてきて、俺は勘が寸分も狂わずに当たったことに対して微妙な気持ちになった。


「不動…?」
「あ、」


やべえ、と思ったときにはもう遅かった。ナマエを隠す暇も、先に行かせる暇もなく佐久間と源田にナマエが見つかった。どちらも訝しげにこちらをうかがっている。


「おい不動…彼女が欲しくなったからっていきなりナンパか?」
「…………幼馴染みの……ミョウジ。」
「ふーん、」
「どもども!あきおちゃんがお世話になってます!」
「ああ、お世話してやってるぜ。」
「てめっ佐久間!」


俺が佐久間の方に向き直ると、右腕に温かな感触。見るとナマエが俺の右腕に抱きついていた。こら、喧嘩はだめでしょ?と俺をゆるく叱るナマエに佐久間はへえ…と感心したように言う。一気に毒気を抜かれた俺はナマエの手を振り払い佐久間に背中を向けた。


「ミョウジさん、今からお帰りですか?」
「はい、アイス買って帰りますー。」
「そうですか、………不動、ミョウジさんを送っていけ。」
「「は!?」」


源田のいきなりの提案に佐久間と声がハモる。ナマエも目をぱちくりとさせて俺と源田への視線を何度も往復させている。佐久間がぽかんと口を開けたまま俺をしばらく見つめ、そのあとナマエに目をやった。そしてため息をついた。あとでなんか奢れよなと後ろ姿を見せながら手を降る佐久間。


「は…?」
「じゃあ、不動頑張るんだぞ。」
「な…源田!?」
「………行っちゃったね。」
「…………あいつら……ったくお節介なんだよ…」



不思議そうな顔で佐久間と源田を見送ったナマエの手を自然を装ってとってみる。顔が燃えるように熱いのに気づかないふりをして俺は早足で歩いた。ナマエは無邪気に「あきおちゃんから手繋いでくれるなんて嬉しい!あの二人にお礼言わなきゃ!」とはしゃいでいる。



「あー…ナマエ?さっきは、……ちゃんと彼女って紹介しなくて悪かった。」
「ふふ、別にいいよ。今謝ってくれたし。」


そんな照れ屋さんなあきおちゃんも私は好きなの!と俺の左手が強めに握られる。緩みそうになる口元に気を付けながら、俺の口からは「あっそ」という、これまた素直じゃない言葉が飛び出した。



君をちゃんと愛したい
(まーあの二人にはバレてたみたいだけどね)
(源田はともかく…佐久間には言い触らさねぇように釘を刺しとかねぇとな…。)


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title僕の精
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