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チェリーリップクリーム



豪炎寺くんを修也くんと呼ぶようになって、時々一緒に帰るようになった。私たちの関係は俗にいうところのカレカノなんだけれど、それ以上まったく進展がない。


「はあ、」
「まーた、ため息?」
「いたっ…!」


私の頭を思いきりこずいた友達のマックスは、にやにやと笑いながらどうせ豪炎寺のことだろ、と私の隣の席に腰を下ろした。別に彼に恋愛相談をした記憶は一度もないのに、私が修也くんに恋し始めたときからちょいちょいアドバイスをくれる。しかもそれが的確というか、結果的に全て上手くいってしまうのだから、器用ってこんなことまで器用なのか、と感心してしまう。


「あ、そうだ。」
「…?」


悩めるミョウジに可愛くてかっこいい恋のキューピッドの僕からプレゼント!とマックスが制服のポケットから取り出したのはピンク色のリップクリーム。ほい、と投げられて反射的に受けとる。改めてまじまじとそのリップを見つめると、どこからどうみても女性用のほんのり色づくタイプのリップだった。ま、まさかマックスこういう趣味を持ってたの……!?そんなことを考えていたら結構な力で頭を隣に叩かれた。


「いったあ!」
「今失礼なこと考えただろ。まあ僕はなんでも似合うだろうけど。」
「マックスってさ………ナルシストだったっけ?」


私の純粋な疑問を受けて、また頭に拳が飛んできそうだったから、私は慌てて身を引いた。そんな私にマックスは不満げな顔をしたあと、母親が間違って買ってしまい、要らないから、と譲り受けたらしい。


「僕も使わないし、新品だからあげる。」
「いや、別にいいよ、わたしリップ持ってるし。 」
「僕の施しを断るっていうの?いいご身分だね。」


にっこりと笑うマックスの怖さに思わず「ありがたく納めさせていただきますお代官さま!」と言ってしまった。ていうか施しってお前……。


「あ、母親が言ってたんだけど、それ、男を虜にするおまじないがかかってるんだってさ。」


ま、商品宣伝の為の大袈裟なウソっぱちだと思うけど。と付け足したマックスは、でもまあ信じる者は救われるっていうし、豪炎寺と帰る時にでもつけてみれば?と助言をくれた。



◆◇



「修也くんおつかれさま!」
「ああ。待たせて悪かったな。」


ユニフォームから制服へと着替えた修也くんと一緒に、門から外へ出る。救われたい私は、もらったリップをちゃんと塗ってきた。他愛のない話をいつものようにぐだぐだと話し、私と修也くんのお別れする場所はどんどん近づいてくる。今日もこのまま終わっちゃうかな、なんて少し寂しくなる。


「おい、ナマエ?」
「へっ!?あ、ごめんぼーっとしてた!」
「ならいいんだが…。今日は最後まで送っていっていいか?」


私が修也くんの言葉に目をぱちくりとさせると、修也くんは赤くなった顔でいつもより早口に、嫌ならいいんだ、と目をそらしてしまった。


「い、嫌なわけない!嬉しいです!ものすごく!」
「そ、そうか…。」


嬉しすぎて全力で返事をしてしまった…。修也くんは引いただろうか。でも盗み見た顔が赤いまんまだったから、大丈夫だと思い込むことにした。それにしてもこの展開、本当にあのリップクリームのおかげなのかもしれない…。一応聞いてみようかな…。


「あ、あのさ修也くん!」
「なんだ?」
「今日の私、なんか違うなーって感じする?」
「いや、いつも通り可愛いが?」
「………え?」
「あ、いや、……まあ、そういうことだ。」


……やっぱ私このリップの効果信じることにする。頭の中では『信じる者は救われる』 という言葉が響いていた。ほんのりと香るチェリーに勇気付けられて、私は半歩ぶんだけ、修也くんの方に近付いてみた。



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title僕の精

松野がでしゃばりすぎた


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