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※長いわりに中途半田
※ちなみに半田はこれっぽっちも出ません



今日も我が帝国学園サッカー部の練習は、鬼のように続く。俺が指揮するだけに鬼のように、な。……なんて一人、頭の中で面白くもなんともない洒落を言ってみる。練習をいつも通り進めていくはずが、俺の愛用のマントを引っ張った人物が現れた瞬間"いつも通り"からずれていった。


「………誰だ。部外者は入っては来れないことになっているのだが…」


振り向いた視線の先には俺のマントを両手で握り締めてうつむいている小さい女の子がいた。


「………。」
「………おい、」


返事が無いので少々強めに声を出すと、その小さな体がぴく、と動いた。そして今にも涙の粒が落ちそうなほど潤んだ瞳が俺に向けられた。


「っ…!」
「お、にぃちゃ…どこ?」


やばい、本能がそれを察知する。出来る限りの自然の笑顔を作り、おにいちゃんを探しているんだな?うんでもここにはいないと思うぞうん、ほら泣いたらおにいちゃんは見つからないぞ、とにかく泣く隙を与えないように喋り続けているうちに背後が静かなことに気付いた。……しまった練習中だった。


「鬼道…?どうかしたのか?」


その声は俺達のゴールを守る源田のそれで、俺はぎくりと体を震わせた。まずい…こんなデカイ体の源田をこの子が見たら確実に…………泣く!!



「いや、まあちょっとな、俺は一度事務室に……」
「おにいちゃんっ!」
「っナマエ!?」

「……………は?」


俺の目の前で、源田の腰辺りに思いきり抱きつき嬉しそうな笑顔を見せている先程の女の子。見ると、源田は俺以上に驚いた表情を浮かべていた。なるほど…これが鳩が豆鉄砲を喰らった顔というやつなんだな。


◇◆


「「「「「源田の妹ォ!?」」」」」


「まじかよ…」

辺見の呟きが広いフィールドに響いた。今練習をほっぽりだしてまで集まって輪になっている俺達の話題の中心にいる源田の妹は源田にべったりと張り付いて離れようとしない。


「…どうしたんだ?」


はじめは驚いていた源田だったが、今はいとおしそうに妹の頭を撫でている。源田もシスコンか………キャラが被りまくりだな。


「あのね、おにいちゃんね忙しくておうちで会えないからね、ナマエが会いに来たんだよ!」
「そうか、でも一人で来るなんて危険すぎるぞ。今日は鬼道が見つけてくれたからよかったが…。」
「でもナマエ、小学生になったんだもん!大人だもん!」


源田が少し厳しい口調で咎めたかと思うと源田妹はへそを曲げたように顔を背けた。ちょっと周りの空気がゆるくなった気がする。それも仕方ないだろう、源田の妹のくせに可愛いのだ。勿論春菜の方が可愛いが。


「鬼道さんっすいません!!佐久間次郎遅れました!あ…ああーッ!ナマエ!?」
「佐久間っちだあっ!!」


源田の腰から絶対に離れようとしなかった源田妹が佐久間を見たとたん駆け出していった。


「佐久間っち佐久間っち!ナマエ小学生になったから一人で来れたんだよ!」
「一人で来たのかナマエ!?」
「うん!」
「すげーな!頑張ったな!」
「うん!えへへー」


源田とはまた違う意味でなかむつまじい二人に俺達は目を点にする。すると源田が佐久間がよく家に来るからなついたんだと説明した。そして源田妹は余裕が出てきたのか部員をひとりひとり眺めていく。



「佐久間っち、この人目悪いの?」
「いや、鬼道さんのゴーグルは一種のシャレオツアイテムだ!」
「そうなの?」

俺のゴーグルについて何故か佐久間が熱弁をふるい始めたが、源田妹はそれには目もくれず、俺たちに近づいてきた。そしてよりにもよって咲山に話しかけた。(こいつ泣かせるんじゃないだろうか…)

「ねぇねぇ」
「…なんだ」
「お風邪ひいてるの?」
「は?」
「だってマスクしてる」
「あーいや、これは……」
「あのね!ナマエがおまじないしてあげる!かがんでかがんで!!」
「お、おお…」


あの咲山が年下の、しかも女の子の命令に従った…!?俺たちに多少の衝撃が走る。


「いたいいたいの佐久間っちにとんでけー!」
「俺!?」
「大丈夫になった?」
「……ああ、さんきゅ、」


咲 山 が 笑 っ た ! ?

「ちょ、なにあれ俺あんな咲山クン初めて見たんだけど!?普通に気持ち悪い!」
「黙れ辺見便所に突っ込むぞ。」


咲山と辺見がいつものようなやり取りをしている間に源田妹は成神のところに駆け寄る。


「おんがく、きいてるの?」
「ん?俺?そうだよ。こうしてないと調子出ないんだよなー俺!」


意外と子供の扱いに慣れているのか成神がかがんで源田妹の質問に優しく答える。成神が笑顔を見せると源田妹は少し赤く頬を染めた。


「かっこいい…!」
「ありがと、ナマエはすげー可愛いな。」
「へへ〜」


こ、こいつ…いつのまに女にだらしないっぽいキャラに…?そんなことを考えながら、ちらりと源田を見ると笑顔のままギリギリと歯を食いしばっていた。怖っ!普通に怖いんだが!


「あ、あの中学生に混じって溶け込もうとしてるハゲおじさんには近寄っちゃだめだから。」
「だるれぁがハゲおじさん!だ!あぁぁん?」
「自覚あるんスね先輩。」

「大丈夫だよ!よのなか広いから、ハゲおじさんを好きになってくれる人もいるよ!」

「源田妹…(ジーン)」

「いや、感動してるとこ悪いッスけど、ハゲで認知されてますからね先輩。」
「辺見どんまい」



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終われ\(^q^)/
帝国でギャグかこうと思うとかならずデコ落ちになってしまう…!

ちなみに最後の台詞は咲山。


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