belze | ナノ


暦の上では春と言えど、まだまだ風は冷たい。思いっきり春の服装でデートに臨んだ私は、吹き抜ける風に身を縮こませた。それと同時に隣から聞こえる舌打ち。


「怒ってるの?」

「………別に」


嘘だ。さっき目的地まで車を出すという姫ちゃんをなんとか丸め込んで、徒歩という選択肢を私が勝ち取ったときから機嫌がよろしくない。だって車に乗ったら、せっかく着た服の全体を見てもらえない。それに他に居るのは運転手さんだけとはいえ、少しでも二人きりの時間が減るのは嫌。その辺の乙女ゴコロって奴を分かってもらいたいものだ。そしてまた、一段と強い風が吹いた。


「う〜さむい…」


思わず出た一言に、姫ちゃんはすかさず「だから車出せばよかったじゃねーかよ」と文句を言った。不機嫌MAXな姫ちゃんを見て、私は急いで姫ちゃんの腕に飛び付いた。


「ごめん…だって、」

「はあ、…今日はずっとお前に付き合うっつったろ。」

「…うん。」


入院で前回デート駄目になったから、と姫ちゃんは昨日電話で今日1日は全部私にくれると説明してくれていたのだ。


「だったら、車乗ってる数十分、他の奴がいることくらいいいだろうが。」


そう言った姫ちゃんを私はぽかんと見つめる。どうやら彼は私の乙女ゴコロを完璧に理解していたようだ。なぜなら、私の耳元で、


「服だって夜になったら脱がせるんだ。昼の間にお前の、可愛い姿を堪能しとくにきまってんだろバカ。」


とささやいたからだ。


「……やっぱり車で行けば良かったかも、です。」


……だって、服のことも二人きりの時間のことも全部分かって、見ててくれたから。「もう遅ぇよ。」と、ちょっとだけ笑った姫ちゃんがすっごくかっこよくて、惚れ直してしまった。



落としたのは貴方

(え、というか夜泊まっていいの?)
(寝かせねえけどな)
(わーい!ふかふかベッドだー!!)
((…聞いちゃいねぇ……))


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