「す、すみませーん…」
むちゃくちゃうるさかったはずの教室に私の声が響いた瞬間、図書館くらい静かになった。そして並々ならぬ視線が私に注がれる。しかし任務を遂行するためには、そんな視線に負けるわけにはいかない。
「お、男鹿辰巳くんはどちらに…?」
「あ?なんだって?聞こえねーよ!」
「おいおいこんな所にマブいねーちゃん1人なんて、…襲われに来たのかなー?」
「ち、違うわよ!」
挑発に乗ってしまい、思わず大声になる。私の方が年上なんだから敬語使いなさい!なんて言えそうにない。あーもー!なんで辰巳くんはベル坊くんのミルクを忘れるの!?そしてなんでヒルダさんは私にミルクを届けさせるの!?と、もうどうにもならないことを嘆く。ここに来たのはヒルダさんに、ベル坊くんのミルクを辰巳くんに届けるという任務を課せられたからで、断りたかったけど、なんの罪もないベル坊くんが可哀想だったから引き受けたのだ。
「あの!男鹿くんはどこに……」
「よう、どうしたナマエ。」
諦めずにもう一度尋ねようとしたところで現れた辰巳くん。辰巳くんと一緒にいた古市くんも私の姿を確認すると目を見開いた。
「ミョウジ先輩!なんでここに!?」
「来たくて来たわけじゃないのよ……辰巳くん!」
ずぃっと目の前にミルクの入った袋を突き出す。一瞬だけ目を丸くした辰巳くんはすぐに笑って袋を受け取った。
「おう、待ってたぜ。」
「………は?」
「でも遅かったからよー。ベル坊がぐずり出して仕方なく、ヨーグルッチ買ってきたんだぜ?」
ったく…とか言い出しそうな辰巳くんに私は頭の中でクエスチョンマークを浮かべる。この言い方じゃまるで、私がミルクを持ってくることを分かっていたみたいじゃない。
「最近会えてなかったし、これくらいしないとナマエ俺んとこ来ないだろ?」
「…………へ?」
状況が理解できていない私を見て辰巳くんは嬉しそうに笑う。
「今日は昼飯一緒に食おうぜ。あと………………さっきナマエに手、出そうとしたヤツ全員土下座な。」
その後、教室には野太い悲鳴が響き渡ったけれど、私の頭の中では辰巳くんのことしか考えることが出来なくなっていた。
レモン味なんかしない
(…だから初恋、じゃないよね)
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titleにせもの
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