俺の隣を歩くナマエがへらりと笑った。「なんだよ気持ち悪ィ」と言うと「酷いなー、もー」と言いながらもまたもへらへらしたしまりのない顔をしたナマエがいた。
「幸せだなあって思って。」
「あ?」
突然顔を出した"幸せ"という単語に反応すると、ナマエも不思議そうに俺の顔を除き込んだ。
「えー?だってさ、今日もたかちんが女の子にデレデレ鼻の下伸ばしてて、ベルくんは大泣きして…」
「俺がベル坊の電撃にどれだけ痛め付けられてると思ってんだ!」
ナマエの言葉を軽く遮り、抗議する。今は、背中のベル坊は昼頃に大泣きしたことなんかなかったことのように熟睡している。ナマエもベル坊のその様子を確認してから微笑んだ。
「あと…、神崎先輩は相変わらずヨーグルッチ飲んでて、城山さんは神崎先輩一筋で…」
「なんかそれ気持ち悪くね…?」
げんなりした顔をした俺をみてナマエは首だけ傾げて言葉を続ける。
「夏目先輩は楽しそうにしてて、姫川さんはリーゼントばっちり決めてて、邦枝先輩は綺麗で、寧々先輩はかっこよくて、千秋ちゃんは可愛くて、あ!東条先輩はたこ焼き屋さんで!相沢先輩と陣野先輩はクールでおもしろくて、」
今日1日でどんだけの人間に会ってんだ…と思いながら話を聞く。ナマエは話しながら、一人一人を思い出しているのか、くるくると表情を変えている。そんなナマエに目を奪われている俺がいた。
「まだまだいるよ!タバコ吸ってる早乙女先生も、美人なヒルダさんも、聖石矢魔の人も、美咲さんも男鹿ママも、男鹿パパも…もちろん私の両親も。」
そこでナマエは一旦言葉を切って空を仰いだ。俺もつられて上を向く。今日は、昨日雨だったのが嘘のように快晴だ。雲一つない、訳ではないが、とにかく快晴である。
「みんな私の傍にいる。」
「……ああ、そうだな。」
「なにより今、辰巳が隣に居てくれるのが嬉しいよ、幸せ。」
恥ずかしがることなく言い切ったナマエの笑顔がすごく綺麗で、思わず出た『俺も幸せだ』という言葉にナマエは、明日もきっと幸せになるよ。と笑った。
「いや、幸せにしようぜ俺たちで。」
くさすぎる台詞も今日の空なら受け入れてくれる気がした。
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幸せがたくさんの人に訪れますように