Q、辺見……ハゲががギャップを見せるとどうなるの?
うっかりして、ワックスやらスプレーやらを切らしてしまった。シュウゥと弱々しく情けない音を立てるスプレーを見て途方に暮れる。ちゃんとセットしねえとやる気が出ねぇことを知ってんのかよバカ野郎!と悪態をつきながら目にした時計の針は、朝練開始の20分前。もう諦めてこのまま出るしかない、か。軽く手で髪をかきあげて、家を出た。
「うっす……。」
部室に足を踏み入れると、既にいた鬼道さんと佐久間とみょうじ。てか佐久間どうした、お前にしては随分早いな。佐久間がいることに驚きながらロッカーに近づくと、後ろから誰だよおまえという佐久間の声。
「はあ?俺だよ俺!」
「寝ぼけているのか?ここは帝国サッカー部の部室だぞ。」
「いや、あの…」
敵意剥き出しの佐久間とあきれ顔で俺をみやる鬼道さん。……いやいやまじで分かってないのか?ずっと一緒にサッカーやってきた仲のはずだろ!?
「…あれ?辺見くんにどことなく似ているような…」
「つーか辺見だよ!」
みょうじが首をかしげて言った言葉につっこむと三人はえっと声を上げ、それきり黙り込んでしまった。な、なんだよ…俺着替えていいのか?
「いや、辺見なわけないだろ!」
「嘘は泥棒の始まりだぞ辺見もどき。」
「つーかなんでわざわざハゲに変装するんだよ、変装するなら鬼道さんとか鬼道さんとかもっとイケててスゲー人だろ。」
「辺見だし、もどきじゃねーし、ハゲじゃねーよ!!!」
「素敵…!!」
俺の全力のツッコミのあとになまえの声が響く。三人が三人ともえっと声を上げてみょうじの方を見ると視線がぶつかった。きらきらと目を輝かせるみょうじは俺を見ていた。
「辺見くん髪下ろすとなんか、大人っぽくなりますね!」
「え、あ……そうか?」
「はい!わあーすごい!」
何故か嬉々として俺に近寄ってきたなまえはぐるっと俺の周りを一周してにっこりと笑った。
「あの、髪さわっていいですか?」
は?と返事としては不十分な言葉を是と受け取ったのか、みょうじが俺の髪に触れた。さらさらと自分では触ったことのないような優しい手つきに少しどきっとする。そして俺は気付いたのだ、なまえの後ろの二人が物凄い形相でこちらを睨んでいることに。
(ちょ、二人とも!?ボキボキ骨を鳴らすのやめようか!!)
A、至近距離で髪を触られました。でもそのあとすごく怖いことが待っていました。