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「きゃあああああっ!」
「うおっ…!?」

部室に入ろうとした瞬間、みょうじの叫び声がして、そしてみょうじ自身が中からビックリ箱よろしく飛び出てきた。とっさにその体を抱き止める。あまりの勢いに一瞬息が止まった気がしたが、カッコ悪いので黙っておく。


「どうした!?」


慌てて訪ねると、みょうじはひぃひぃ言いながら、俺の胸の辺りの制服をぎゅうと握りしめたまま首を小刻みに横に振って言葉を発しない。……まさかあのデコが(俺の)みょうじを泣かせたのか…!?いや、あいつはみょうじをこんなに泣かせるような甲斐性はないはず…。ということは、あの孤高のなんちゃらとかいうフザけた肩書き持ったモヒカンか!あのやろう!……いや待てよ…あいつみょうじの涙には滅法弱かったはず(源田情報)…実際、虐めても泣く一歩手前で止めてるしな。俺がみょうじの泣いた理由を色々考えていると、みょうじが不意に俺を見上げた。


「さ、咲山くん…!く、蜘蛛を逃がして下さい!」


「……蜘蛛?」
「部室の水道のとこですっ」
「…わかった」


想像していた原因とだいぶ違っていたため、少々拍子抜けしながらも、みょうじを安心させるため頭を二回軽く叩いてやった。

部室に入って言われた通り、水道の辺りを除き込むと、体が豆みたいで、足がものっそい長いタイプの蜘蛛が降臨していた。なるほどこれは気持ち悪い。何となく素手で掴むのは、はばまれて、その辺にあったティッシュで軽くつかんで外に放り出した。


「おい、逃がしたぞ。」
「あ、ありがとう…!」


駆け寄ってきたみょうじはなぜかもじもじとしている。なんだよ、と言って言葉を促すと、みょうじは辺りをきょろきょろと、せわしなく見回したあと、俺にずい、と顔を寄せた。


「…!」
「こ、このこと…みんなには内緒にして下さい……特に不動さんと佐久間くんと辺見くんには……、」
「…は?(やっべキスされるかと思った)」
「私が蜘蛛にびっくりして叫んだなんて知ったらネタにしてくるに決まってます…」
「ああ、そういうことか。」


確かにあいつらなら確実に…100%みょうじをからかうだろう。精神的な部分がガキだからなあいつら。みょうじの発言に納得して、俺が「誰にも言わねーよ」と言うとみょうじは、ぱっと笑顔になった。


「じゃあ私と咲山くん、二人だけの秘密、ね?」


嬉しそうに首を傾げたみょうじが可愛かったのと、二人だけの秘密という言葉の響きにマスクの下でにやけそうになったのは、俺一人の秘密、である。



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イメージしてる咲山がかっこよすぎて辛いよ
きっと咲山さんはかっこよすぎるくらい男で普通に常識人で思春期でかっこいいはず←



 
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