静雄→←臨也で義兄弟設定 | ナノ



★静雄→←臨也で義兄弟設定


※高校設定でかいてみました






折原臨也は俺の兄に該当する。

とは言え歳は同じだから、本当のところは兄だの弟だのそんな括りは正直どうだっていいのだ。が、しかし。生まれた月が半年ほどあちらの方が早かったために、一応俺の位置付けは弟ということになっている。実際は俺の方が身長もあるし、見掛けで言うならどちらかと言えば俺の方が上に見えることは確実だろう。

高校に上がって一年ほど経ったころ、臨也の母親と俺の親父が結婚した。

ある晴れた日の昼下がり、食事を摂るための貴重な休憩時間に臨也に呼び付けられて俺は屋上へと向かった。毎日のように喧嘩ばかりを繰り返していたから、今回もまたその流れに逆らうことはないのだろうと思いながら一人屋上への階段を上る。それなのに扉を開いた先にあった晴れ渡る空に反して、臨也の表情はいつになく感情が消え失せた無表情で、ああ何かがいつもと違うなというそれだけは何となく感じ取ることができた。

フェンスに背を向けてこちらに向き直った臨也が、唐突に「結婚するんだって」と呟く。なんの話だよと当然そう俺が聞き返したところで、臨也はもう一度同じ単語を、それでも先程より一言多く付け加えて発した。


「結婚するんだって、うちの母親」

「………へぇ」


つまらない相槌を返しても臨也の表情は変わらない。俺も俺でそう器用な反応を返したわけではなかったけれど、自分から話振っといて何なんだよその態度は、と思わず心の中で吐き捨てる。臨也はいつだってわけのわからないことをその口で捲し立てるけれど、こういう表情はかつて見た事がなかった。何を考えているのかが全くと言っていいほどわからない。それにしたってもうちょっと気の利いた対応くらいできねぇのか、そういう得意じゃねぇかよお前。


「めでたいじゃねーか」

「そう」

「………違うのかよ」

「相手は君の父親だよ」

「は…?」


相変わらず感情の乏しい面と声で告げられた事実に、とてもじゃないが今度はへぇだなんてつまらない言葉を返すことができなかった。まず受け入れる以前に、きちんとした現実としてそれは成り立っていないんじゃないだろうか。頭に有り得ない、という単語が過ると同時に、目の前の臨也が一瞬その瞳を伏せる。それからまた黒い瞳がくるりと俺に向けられて、真っ直ぐに見据えたと思うと続けて凛とした声が俺に追い打ちをかけた。



「俺たち兄弟になるんだよ、シズちゃん」




--------------



再婚してから一か月、四人揃っての食事風景は和やかな家族団らんの図そのものだった。臨也の母親は想像とは違い酷く穏やかな柔和な人で、俺にも優しく接してくれる。互いに再婚ということもあり少なからず不安も抱いていたのだろう、だからこそ臨也の母親も俺の父親も、和やかに流れて行く時間を酷く幸せそうに過ごしているのが見て取れた。
子どもという立場ではあるが、もう親に我儘を言うような歳でもないと俺はそう思っている。臨也がどうだったのかは俺の知ったことではないが、了承したということはきっと母親の為を想ってだったのだろう。

臨也は母親に優しかったし、俺の親父にもその物腰は柔らかく穏やかだった。四人で食事を食べる際の会話の中心は殆ど臨也がその割合を占めていて、時折笑いながらねぇシズちゃん、そう言いながら俺にも会話を振ってきたりする。元は他人と言えど、紙切れ一枚の関係と言えども、確かに家族に変わりない間柄にふさわしい和やかな光景。そう、臨也は普通だった。自分の母親と俺の親父が居る前でだけ、だったけれど。





夕食も風呂も済ませ、互いに自由な時間を過ごすための部屋。新しく建てられた家には広めの部屋をひとつ、そこを俺と臨也の部屋として与えられた。同学年の同性を気遣っての両親の配慮は、正直間違っていたと思う。けれども良かれと思い与えられるものを、俺も臨也も拒む事はしなかった。

横に長い部屋の両端にそれぞれのベッド、勉強用の机、あとは互いに必要な家具が幾つか。まさかこの歳になって兄弟と相部屋だなんて境遇に遭うことは想像もしなかったが、なってしまったものはどうしようもない。
臨也も「わかったよ、ありがとう」なんて両親の前では笑顔を振り撒いていた癖に、俺と最初に部屋に二人きりになった瞬間唐突に告げた。



「ここから入って来ないでよね」


ここから、と臨也が設けた境界線は、具体的に何かでそのラインを示されたわけじゃない。それでもあいつの性格からしてちょうどこの部屋をふたつに分ける、ぴたりとど真ん中なのだろう。部屋の壁の中央に小さな出窓がある、その中心の辺りの位置に立って冷たくそう言い放った。

一緒に暮らすようになってからというもの、臨也は俺と二人になる度にこうだった。両親が居る前ではさも機嫌が良いように見せて、義兄弟同士でも仲睦まじいように振る舞い、親の目がない部屋や学校では極端に俺と言葉を交わすことを拒む。寧ろ存在自体を忌み嫌うかのような態度だった。

元々仲が良い、という言い方が似合わない間柄である自覚こそあったが、俺には臨也のその行動の意味が全くわからないままだった。おかしいことだけはわかっていたけれど、何となくそれをどちらの親に大しても話題として持ち掛けるのは気が引けた。それぞれ苦労して今まで自分を育ててくれて、漸く幸せを掴んだばかりの身だ。些細なことで気を煩わせるつもりは更々ない。

そして今日も今日とて、部屋に入るなり二人の間を纏う空気は様変わりする。毎日嫌でも交すのは風呂とかそういう義務的なことを単語で告げるくらいのもので、会話らしい会話はほぼ皆無に等しかった。

時間も時間なので電気を落とした部屋の中、臨也は勉強机の上のライトを点けてかちかちとノート型のパソコンを弄っている。勉強らしい真似をするのはテストの前日だけしか見た事がないので、大体それが毎晩の見慣れた光景だった。因みに俺はテストの直前に学校で教科書を読む程度なので、毎回学年上位の臨也の勉強スタイルにケチをつける権利など、当然の如く存在しない。

俺は既にベッドの上にごろりと寝転がり、何をするでもなく天井を見上げてただぼーっとしていた。大概はこうして毎朝気付くと朝になっていて、離れたベッドの上に臨也の姿は無い。俺は未だに臨也が眠っている姿をこの目で拝んだことがなかった。

むくりとベッドから起き上がり、身を乗り出して自分の机の上の筆立てからペンを一本抜き取る。書く用途を必要としていないのでどんなものでも良かった。それを部屋の中央、要するに反対側の臨也が居る方向へと軽く投げる。とん、と静かな音が響き、臨也は画面から目は逸らさずキーボードを叩く手だけを止めた。

ややあって、またその指先はかたかたと忙しなくキーの上を滑り出す。それでも見過ごすことはできなかったらしい、溜息混じりの呆れた声で臨也はその口を開いた。


「…入って来るなって言わなかったっけ」

「仕方ねぇだろ、事故だ」

「俺には君が故意に投げたように見えたけど」

「気のせいだろ。つーか入るなって言うなら取れよ」

「ふざけんなよ。自分で放り込んどいてあまつさえそれが人に物頼む態度?」

「入れねぇから仕方ねーだろ、誰の所為だよ」


俺の言葉に臨也はもう一度溜息を吐き出して、椅子をキィと鳴らして立ち上がると部屋の中央に向かって歩いて来る。ペンを受け取るために俺もまたベッドから立ち上がり、臨也との距離を縮めた。


「次こんなふざけた真似したら、殺すよ」


静かな空間に臨也の声が綺麗に響き渡る。身を屈め拾い上げた、臨也のテリトリーに落ちたペンを差し出されて、それを受け取るフリをして俺も自らの領域から手を伸ばした。それでもペンの存在をスルーして、俺は臨也の細い手首を掴んでぐいとそのまま身体を力任せに引き寄せる。
ぐらりと呆気なく傾いた身体は、あっさりと俺の方へと倒れ込み境界線を越えた。逃げられないようにと自分よりも線の細い身体を回した腕で抱き寄せる。抑え込んでしまっているので逃げることのできない臨也が、俺の腕の中で身じろぎをするが、更にぎゅうと抱き込むと直ぐに大人しくなった。無駄な抵抗だと気が付いたらしい。


「…入って来るなって何度言えばいいわけ?単細胞のシズちゃんはもしかして日本語も理解できないのかな」

「うるせぇよ、入ってきたのは手前だろ。俺はそっちには行ってねぇ」

「あのねぇ…小学生じゃないんだから。誰の所為だと思ってんの」

「うるせぇって言ってんだろーが。自分からは入ってないのは事実だろ」

「………屁理屈だ」


呆れた口調は余り気持ちのいいものじゃない。それでもこんなに会話を交わすことがそれはもう随分と久しぶりのことで、何だか懐かしいとかそんな事を思ってしまう自分が嫌だった。
喧嘩ばかりだったとは言え、それでも今のような扱いよりはその関係は随分とマシだったように感じる。どちらかと言えば今は俺の存在がまるでそこに最初から無かったかのような、そんな扱いを受けていと言っても過言ではないだろう。そう、しかも二人きりの時にだけ。


「お前のそれ、なんだよ」

「なにが」

「親の前で馴れ馴れしくしといて部屋に戻ったら人のこと空気扱いしやがる態度のことだよ」

「………」


面と向かって問い質したのは初めてだ。気になっていたのは最初からずっとだったし、どんな馬鹿だって気付くほどのあからさまな仕打ちだと思う。それでも我慢できていた事がここ最近はできない、苛立っている自覚が湧いて、それと同時に妙な感覚が自分の中に芽生えていることにも気が付いてしまったからだ。どうしたいだとかそういうはっきりとしたものが存在しているわけじゃなくて、逆に行動してみなければわからないと思ったからこそ起こした。他人の本音なんて、当たり前の話だが見えることなど有り得ないのだから。


「…くせに、」

「ああ?何だよ?」

「先に入ってきたのシズちゃんの方だろ」

「この期に及んでまだそんな事言いやがんのかよ」

「だってそうだ」

「違うって言ってんだろ入って来たのは手前だ」

「………先に入って来たの、シズちゃんの癖に」


馬鹿の一つ覚えみたいに繰り返す臨也の言葉の、その発音や意味合いが徐々にすり替わって行くような曖昧な感覚を感じ始めて、段々と言い返すことがままならなくなってしまった。そうだ、多分臨也がいけない。先程まで威勢よく人に突っかかってきていた癖に、腕の中に収めた途端に大人しくなって、いやそうしているのは自分だったけれど、しおらしくなってしまったりするのがいけない。


「母さんが幸せになれると思ったから」

「ああ?」

「再婚すれば。それなのにさぁ、相手がよりによってシズちゃんの父親だよ?流石の俺もここまで来るともう笑えない」

「………いざ」

「………何でシズちゃんなんだよ」


なんで兄弟なんかにならなくちゃいけないの、と。肩口に響いた声は俺の中にちくりと曖昧な痛みをもたらして、それでもそれだけだった。こんなでかい弟なんかいらないよ、そう付け足す悔し紛れの文句に、俺も手前みたいなクソ生意気な兄貴要らねぇよ。そう言い返してやりたいのに、できなかった。

初めて抱き締めた身体は想像していたよりもずっと細く、普段の虚勢を張る姿からは想像もできないくらいに弱々しく頼りないものに感じられる。そうか、ここ最近は学校でもこうだから、ろくに喧嘩らしい喧嘩もしていない。そんなことを思って当たり前だ。
肩に凭れかかる臨也の頭の後ろにそっと手を回し、そこに手を置こうかどうか悩んだのはほんの一瞬だった。その言い訳を何でもいいからと、俺はその黒髪を撫でつつ頭の中で取り繕うことに必死だったのだ。





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臨也の片思いからじんわり静雄もほだされて行きかけの過程くらい




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