年下静雄×年上臨也 | ナノ



★年下静雄×年上臨也



※17歳高校生静雄×23歳社会人臨也です




「うーん…カラオケ?あ、買い物とか?」

「…………」

「じゃあ水族館」

「………水族館」

俺の言葉をそのまま繰り返しただけで、シズちゃんは難しい顔をしながらそれでも決してうんとは
頷かない。どうしたものかな、浅く息を吐き出して俺は一人寂しく肩を竦めるほかなかった。

休日の土曜日、時刻は午後二時を回ったところで、これでもかというほどに空は快晴だった。そのせいもあってか今日の池袋はいつにも増して人出が多く感じられる。例外ではない自分たち同様、お出かけ日和と称するに相応しい好天だ。思わず街に繰り出したい気分だったのだろう。

とは言え、俺とシズちゃんは待ち合わせをした駅の前に突っ立ったまま、かれこれ十分近くはそこにぼうっと何をするわけでもなく立ち尽くしてしまっている。朝一に電話で誘われて、じゃあ昼過ぎにとごく自然な流れで無事に落ち合った。けれど問題はそこからだった。

俺の恋人はというと、それはかわいいかわいい現役の高校生だ。出会いはひょんな事から通勤通学の電車の中で知り合い、それから恋に落ちたというベタな馴れ初めがあったりする。

正直俺は年下なんてまるで眼中に無かった。そもそもシズちゃんは男だし、まぁ問題は色々あった。しかし結果的に見れば、色々あったけれど世の中は割と何とかなるものだった。
乗り越えてきた数々のハードルを振り返ることにより、伊達に上辺だけで好きじゃないということが見て取れるだろうという気持ちの面のメリットこそあったし、何より年下ということもあり要所要所が酷くかわいらしくて癒される。更に付け加えるなら、からかい甲斐もあって本当に至れり尽くせりだ。使用方法が間違っている気もするが、これは多いに事実なのでどうそ見逃して貰いたい。

そんな説明じみたことはさて置きだ、俺とシズちゃんのふたりは見ての通り途方に暮れてしまっていた。いや、この場合途方に暮れてしまっているのは俺一人だけであって、何ら焦る素振りすら見せないシズちゃんはそうでもないのかも知れない。

デートがしたいと言ったのは彼の方だったから、きっと何処かしら行きたいところがあるものだと思い、会うなり俺はさてどうする?と問い掛けた。

そう、それが丁度十分前の出来事であって、そのままこうして今の状態に至る。黙りこくったシズちゃんに俺が思い付く限りのデートらしい過ごし方を提案してみても、彼はそれにひとつとして首を縦にもいっそ横にも振らない。いいとか駄目とかいう以前に、誘われた身としては本当に出掛けたかったのかどうかすらいっそ謎のままだ。

「映画は?」

「映画」

「そ、時間潰すにはいいでしょ?」

「何か見たいもんあるのか」

「………いや、特にはないけど」

ただ提案してみただけだ。見たい作品はおろか、俺はいまどんなものが上映されているのかさえ知らない。それでも所謂デートコースの王道としては酷く無難な一択だとひらめいたつもりだったのだが、どうやら彼は映画観賞にもさして興味をそそられなかったようだ。まぁ、確かにそんな柄じゃないってことは俺が一番わかってるけどさぁ。

そうしてまた互いに口を噤んでしまって、気まずい沈黙が俺とシズちゃんの間を支配する。しかしあくまで静かなのは俺たち二人の間だけであって、周囲の喧騒はやまないままだ。ざわざわとした音の中に時折楽しげな笑い声や、どこへ行こうか何を食べようかなんて声が混じる。

難儀なものだ。池袋にはそれなりに何だってある。皆それぞれ何かしらの目的があってここを訪れこれだけの人間が集まっているというのに、どうしてか俺たち二人に行き先は見付からない。

いまだに何処か思いつめたような表情で視線を伏せているシズちゃんを見上げ、それから取り敢えずその手を取った。そのままぐいと腕を抱え込むように引き、ちょうど信号が青になって人が一斉に行き交い始める横断歩道の上へと滑り込む。

「っ、おい」

「なに?」

シズちゃんのやや焦ったような声に、俺は歩く足を止めることもせずにそう返した。何せここは道路の真ん中だったから、足を止めている暇なんかない。するとその先の言葉が彼から戻ってくることはなかった。






駅からほんの少し歩いて、俺はよく街中で見かけるチェーン店のコーヒーショップに入る。そこでようやく絡ませていた腕を解いて、割と空いている店内を進んでレジカウンターへと歩み寄った。シズちゃんは俺よりワンテンポ遅れながらも、後ろにちゃんと着いてくる。

「えーっと、テイクアウトで。ドリップのショート」

かしこまりました、と明るい声で店員が受け応える。後ろをぐるりと振り返って、やや高めの位置にある顔を見上げて問い掛ける。

「シズちゃんは?何にする?」

「………え、」

「あれ、コーヒー飲めないんだっけ」

「飲めるっつーの。馬鹿にすんな」

「んー……じゃあこれ。キャラメルスチーマー。トールでひとつ、以上で」

途中からは会話を無視して勝手にシズちゃんの分を注文し、手早く支払いを済ませてランプの下で手際よく準備されたコーヒーを受け取る。俺がふたつとも手に取り、そのまま店から出て足早に目的の場所へと向かった。今度は両手が塞がっていて引いて歩く事はできなかったが、振り返らずともたぶん、そう遠くない位置にシズちゃんが着いて来ている感覚がある。やれやれ、どうしたものかな。手元のコーヒーが冷めない内にと、更に歩幅を広くしてすたすたと歩く速度を速めた。




辿り着いた先の公園で、小さなベンチが並んでいるそこに腰を下ろす。目の前に噴水がある特等席だ。突っ立って俺を見下ろしているシズちゃんに座りなよ、と促すと、彼も大人しく俺の隣に腰を落ち着かせた。

はい、俺のものより少し大きいサイズの容器を差し出すと、ややあって静かにそれを受け取る。良かった、強引ではあったが取り敢えず飲んでは貰えるらしい。ほっと息をついて正面に向き直り、俺はまだ熱いコーヒーを一口飲んだ。

「いい天気だねぇ」

降り注ぐ日差しが直接温度として肌から体内に染み入って行く。ぽかぽかという文字通りの感覚が気持ち良くて、思わず目元を細めた。シズちゃんの手元に握られたキャラメル何とかは未だに一口も消費されることなく、彼の曖昧かつむすりとしたままの顔もそのままである。

「ねぇ、何でそんなに機嫌悪いの?俺なにかした?」

「…………」

「黙ってちゃわかんないんだけど。あとそれ飲まないの?キャラメルやだった?甘いの好きだから平気かと思ったんだけど」

「……違う」

「そう。たまにはこうやって外でのんびりするのもいいかと思って、シズちゃん日向ぼっことか好きだしさぁ」

俺がそんなことを言うと、またシズちゃんの表情がむっとしたようなものに変わる。今のタイミングこそ何か気に障ることを言ってしまったのかどうかがわからなかった。元々ご機嫌を取りたいと思っていたつもりもないが、別に不機嫌にさせたいわけでも何でもないから、正直もうわけがわからない。

「デートしたいって言ったのシズちゃんだよ」

「…だからだよ」

「へ?」

「俺がいっつも連れ回されるばっかじゃねぇか」

確かに俺とシズちゃんのデートといったら、俺から誘いを持ち掛け、俺が彼に伺いを立てながらそれとない場所に案内しては連れ回す、というのが大抵のパターンだった。それは間違いない。

「たまには自分から誘って、どっか連れてってやりてぇと思ったけど」

「………うん」

「誰かと付き合うとかそういうの、初めてだからよくわかんねぇし。俺のが歳も下だから、手前みたいに特別変わったところとかも知らねぇし。でもお前はこうやって俺が好きなもんとか、好きな事とか、それとなく連れてくだろ」

「ああ、まぁ、それは」

「俺はお前が何好きとか、全然知らねぇから」

決して目線は合わせてはくれない、俺が一方的に見つめるだけで、彼はまだ視線を地面の上に落としたままだ。

「なんか…だっせぇ」

ぽつりと呟いて、神妙な面持ちのままで重い溜息をはーっと吐く。この晴天に反してこの気の落ちようだ。しかもその原因がなんだ、まさかの「ちゃんとリードしたくて上手く行かなくて落ち込んでいる」という理由らしい。

逆に俺から言わせて貰うなら、6つも歳の離れた相手にそういった期待は抱いてはいないし、しつこいようだがそこが可愛いところでもあるのだ。色んなものを見せて連れ回すことで、色んな表情が見られることにどちらかと言えば期待をしている。そう、だからこそもしシズちゃんが俺と似たようなことを考えて背伸びをしようとしているのだと、したら。

不覚にも心臓の周りを覆う何かがぎゅうっとそこを締め付けた気がした。一瞬息が詰まって、何なんだこのかわいい生き物はと誰かにめいっぱい問い詰めてやりたい気分にすら襲われた。勿論そんなことはできるはずもないのだが。

見た目は俺より身長だって高く、顔だってそこそこの、寧ろ俗に言うイケメンという部類に属しているに違いない。好んで付き合っているわけなのだから少なくとも俺はそこだって好きだ。それなのに中身はこんなに可愛らしくて、今は一人心の中、ギャップ萌え恐るべしという教訓とひたすら戦っている。

シズちゃんはようやく手元の容器を口元に運び、ずっとその中身を啜った。そのあと程よい温度に冷めたそれをこくこくと飲み始める。良かった、強引に選びはしたがその味は何とか彼のお気に召したらしい。

どうしたって埋められない年の差を、彼がよく気に掛けていることは知っている。知っているけれど、俺は事実大人だからどうしても大人ぶることをそう簡単にやめることはできない。子ども扱いされてしまう自身がじれったいのは大いにわかるが、仕方のないことだといつか理解して貰えれば有難いなと思いつつ、下手に気を遣うよりは自らがしたいようにして彼との関係を続けていた。

いつか振られるかどうかという問題を思いたくなくとも考えてしまうとき、どうしたって結果的に自分が振られることを考えてしまうのは年上特有の悩みに思えてしまってならない。
シズちゃんは若いし、それこそモテそうだし、今は俺のことがこれでもかというくらい好きなようだが、じゃあ永遠にそうかと言えば違うだろう。そこで6つの歳の差を考えてしまったとき、その6年のタイムラグが与えるものは中々に大きいと俺は思う。

入れ込んでしまうことが怖いのは俺にしかわからないことだと、少なくとも自分はそう思っている。こうして不意にときめきみたいなものを感じるたびに、そういった予防線は次第に曖昧になって行く。シズちゃんと付き合うときだって俺はそうだったし、幾度となく自問自答を繰り返して付き合い始めた。本当にいいのだろうか、6つも下で。そう何度も何度も考えて、それでも彼と一緒に居たいと思ったからこうして真面目にお付き合いを始めたというわけだ。

「ねぇ、シズちゃん」

「…なんだよ」

拗ねたように呟いてまたこくりとキャラメルの液体を飲み干して行く。彼の左側に座った俺のほう、膝上にだらりと垂れていたシズちゃんの手を取って互いの足の間に運んで指先を絡ませた。きゅっと握り締めて手を繋ぐ。

「ラブホ行こっか」

瞬間勢いよく飲んでいた液体をぶっと口元でふきかけたシズちゃんが、反射で俺の指先もぎゅうと握り返してきた。ああいいなぁ、この感じ。こんな時にこんなことを思ってしまうのも情けない話だけれど、些細なそれすらも何だか愛しいとか感じてしまう。

俺は大人だけれど、所詮それは言ってしまえば誰かが勝手に決めたことだ。生まれた日にならって歳が上だとか下だとかそういう区分を施され、俺とシズちゃんはたまたまそれが6年という歳月だっただけに過ぎない。

歳が上だから大人っぽくしていたいし、大人っぽいと思われたいし、可愛がりたいし、可愛いと思うのだろうと思う。だからと言って別に格好よくないと思わないわけじゃない。
セックスをしたのはまだ数えるほどで、片手で充分事足りるほどだ。どれも誘いを持ち掛けたのは俺の方だし、シズちゃんはしたくてもしたいと自分から言い出せないみたいだった。がっついてると思われたくなかったのだろう、それとない雰囲気のとき、ぐっと何かを押し堪えるような表情をたびたび俺は目撃しているから。

外で目一杯甘やかすよりも、自分だけのものだと腕の中に囲って甘やかしたい気分だった。それにセックスの際に俺をやたら気遣ったり、普段よりずっと男らしい顔を見せて来たりと、別に可愛らしいところばかりが全てじゃない。さきほど言ったように、そこだけじゃないところがまた堪らないのだ。こうやって照れちゃうところなんかも含めて、ね。

「…っ、ひ、昼間っから何言い出してやがる」

「えー?じゃあ夜ならいいの?俺待てないなぁ」

「へ、あ、………は?」

何の脈絡もない唐突な誘いに、頭の上に目一杯クエスチョンマークを並べ、口をぽかんと開けたままの驚いた様子だったが、その頬はほんのりとだか赤みを帯びている。間違いなくシズちゃんの言う通り今は昼真っ盛り、あと数時間もすればやがて日も落ちて辺りは暗くなってくるだろう。

「俺はね、いいんだよ。わりとこんな感じで」

「ああ?なにが…」

「一緒に居たいってそれなりに偉大なことだと思わない?」

じゃあ連れてって、シズちゃんの行きたいところ。そう告げて握り締めた手の親指で彼の爪を撫でた。

遠回しに俺はシズちゃんが居ればどこだっていいんだよと諭したつもりだったのだが、まだ若くてどちらかと言えば思考回路が単純にできている彼が、それをすんなりと解釈できたのかは謎だ。視線を泳がせたまま、ちらりと俺を伺うように見たので、それがかわいくて思わずまた笑ってしまったりした。

このあと俺とシズちゃんが大通りから外れ、路地裏に姿を消したのは言うまでもない。





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