臨也と子シズで保育園パラレル | ナノ



★臨也と子シズで保育園パラレル



※二十歳と五才くらいだと思ってください




「いざや。おい、いざや」

すやすやとそこらかしこから穏やかで小さな寝息が響くお昼寝時間、教室の片隅で保護者との連絡帳に目を通しチェックを入れている中で、ふと自らの名前を呼ぶ声が聞こえた。すらすらと滑らせていたボールペンの動きを一旦止めて、それを机の上にそっと音を立てることのないように落ち着ける。椅子を引く際の音にも気を遣いながら、園児向けの低めの机から立ち上がって声の方向へと静かに歩み寄った。

「…静雄くーん。ほら、みんなもうおねんねしてるよ?静雄くんはできないのかなー?」

周りで眠る園児たちを起こさないように、屈んでそのまま小さな布団の横に肘をついて寝そべる。手を伸ばしそこに横たわる色素の薄い茶色がかった髪をぽんぽんと撫でると、くるくると忙しなく回るつぶらな瞳が僅かに細められた。

「いざやがいっしょに寝てくれるなら寝てやるよ」

「はい、臨也は合ってるけどちゃんと先生付けようね?じゃないと一緒には寝てあげられません」

「……………いざやせんせい」

「よろしい」

にっこりと笑って柔らかい髪をやさしくやさしく梳いてやる。子どもはこうして褒めてやるとまた褒めて貰いたいという感情が生まれ向上心が高まるのだとかなんとか聞いた。

もっと深くまで掘り下げて言うならこれは大人たちが子どもを一方的に扱いやすくしているのはでないのか、と俺は思ったりもしたが、そういう小難しいことを考えていてはこんな仕事は務まらない。
そういう程よい心持ちでマニュアル通りに日々の仕事をこなし、それとなく上手く立派な保育士としてやっている。若い男ということもあってか、保護者のお母さん方々からの支持はいっそ不思議なほどに絶大だ。

見た目的にも内面的にも向いているとは誰の目から見ても非常に言いにくいであろう、この職種に就いたことにさし当たって特別な理由などはない。
厳密に言うならコネで入ってしまったが故に、余り事細かにそういう事情を言いたくないということを察して頂ければ非常に有難いことだ。正直最初は子守りなんて仕事絶対に御免だと思ったが、遠い親戚の繋がりで渋々資格を取らされろくな反論もままならないままにこの仕事を始め、結果として今に至っている。

慣れというのは非常に恐ろしいもので、今は不思議と向いているような気がしなくもないからこれがまた面白い。昔から年の離れた妹たちの面倒を見てはいたから、そう子どもの扱いに戸惑うようなこともなかった。
持ち前の頭の回転の速さと状況把握のスキル、それらをちょいと駆使するだけで日々を過ごすにはいっそ十分過ぎるほどである。物凄く幅広い意味合いで見れば、俺はこの仕事が向いているのかも知れないとすら思い始めていた。

まぁそんな俺の経歴はさて置き、保育士という中々に大変な日々の激務をこなす上で、幾ら向いていると自負したところで問題がゼロなのかと問われればそうじゃない。
現にいま、目の前で寝転がった五歳児の坊やが実にいい例だ。と言うより寧ろ、彼以外に関しては俺のワークライフにおいてのさしたるところの問題らしい問題はほぼ皆無に等しい。逆を言えば彼だけが俺の思い通りにならず、翻弄されるまでも行かないが、ぐるぐると実に子どもらしい手法で穏やかさに割り入って来る存在といってもいい。それでも邪見に扱えないところはやはり、子どもの特権というやつなのだろうか。

「いざやせんせ、俺とけっこんして」

はい出た、ほら出た。状況だけ見れば小さな子どもの頃によくありがちな「○○ちゃんと結婚する」という純粋な好意からの流れだ。そう、根本的な問題の俺もこの子も性別がおんなじであるということを除けば。
現代の子はいきなり突拍子ない言動を起こしたりするとテレビでよく耳にするけれど、僅か五歳児にしてこれは果たして如何なものだろうか。一瞬彼の将来に思いを馳せて尚且つ親御さんのことを思うと、無意味にエールを送りたくなってしまった。

「うーん…静雄くんは男の子でしょ?結婚は女の人とするものだよ。きみのお父さんやお母さんだってそうじゃないの?」

「はぁ?そんなことわかってるよ。でもおれはいざやせんせいとけっこんしたい。だからおれとけっこんして」

「はは。静雄くんはどこでそんなプロポーズ覚えてきたのかなー?すごいなー先生照れちゃうなー」

「子どもあつかいすんじゃねぇよ」

「………うーん、扱いもなにも子どもだからねきみ。他にかわいい女の子、クラスにいーっぱい居るじゃない。どうしてまた俺なの」

「好きだからにきまってるだろ」

「………それはどうもありがとう」

物凄く真顔で熱烈なプロポーズを受けたのは初めてだった。相手が自分より一回り以上年下の、ましてや教え子と称するような預かりの身ではなかったとしたら、人生において記念すべき記憶の一部として脳裏に刻み付けられたに違いない。

布団を肩まで掛け直してやりながら、よしよしと更に小さくて暖かみのある頭を撫で続ける。続けていればやがては眠りに落ちてくれるだろうという淡い期待を込めながら、俺はできるだけやわらかい手付きでそこを撫でる動作を繰り返した。

「静雄くんがちゃんとお昼寝して、うんと大きくなって、とびきりのイケメンになったら先生と結婚しようね」

「おれ、おっきくなるぜ?まいにち牛乳のんでるから、先生よりぜったいにでかくなる!」

「はいはい、しー、ね。みんなが起きちゃうから。じゃあお昼寝して早くおっきくならないとねぇ」

「ねむくねーもん」

「えー…じゃあ今日のおやつのプリン、静雄くんのぶん先生が食べちゃおうっと」

「………それはやだ」

先程までの威勢は何処へやら。途端に小さく萎縮してしまった様子だけを見ればやはり他の子どもと大差はなく、可愛らしいと純粋に微笑むことが出来る。

「じゃあお昼寝しよう?静雄くんが眠るまで先生こうしててあげるから」

「…せんせ」

「うん?」

うとりうとりとした目配せを繰り返しながら、ゆっくりとした速度で布団の中からすっと小さな手が伸びてくる。小指をそうっと目の前に差し出されて、唐突に訪れた睡魔と格闘しているのだろう、今にも閉じてしまいそうな瞼を無理矢理押し留めながら小さなくちびるが呟く。

「やくそくしてよ。おっきくなったらけっこんしてくれるって」

そこまで眠気と戦いながら必死になるようなことだろうか。そんな辛辣なことも思ったが、まぁ健気な部分だけを見ればやっぱり何処となく微笑ましい光景には間違いない。

根本的に間違っていることに、その大きくなってゆく過程でいつか気付いてくれるだろうと信じて俺もそっと小指を彼の小さな指に重ねて結ぶ。彼の意識はもう眠りの縁に飛び込む一歩寸前で、指切りの歌を口ずさむ俺の小声は最早子守り歌にしかならないだろう。そっと繋がったそこを揺することで、先程より延々続けているひそひそと交す内緒話に終止符を打った。





「…ゆーびきった」






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この十年後高校生になった静雄に翻弄される三十路の臨也だといいですね
ありがちな感じですいませんでした


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