ロールシャッハテスト

寝台の上で目を閉じたのは随分前だった。
どうしたのか目が冴えてしまって眠れないので、諦めて起き上がる。
「……散歩でもしましょうか」
軽くなら怒られるまい。
よっこらせ、と毛布を剥いで立ち上がった。ギシリ、と背後の寝台が軋む。
いや軋んだと行ってもこれは筋肉による重みで脂肪は本当に全然ないので!
そそそ、と深夜の雰囲気がそうさせるのか、抜き足で廊下に出る。
月明かりが綺麗な夜だった。今更ながら満月らしい。
外に面する廊下を選んで歩く。冷たい空気がむしろ心地よかった。
仄かな影が増える。

「父上」
「……禅?」

同じように寝衣の禅が立っていた。記憶よりだいぶ小さい禅は、まだ10代の前半である。今晩は、と微笑みに乗せられた言葉に挨拶を返した。
「ん、今晩はー!どうしたんですか?こんな夜遅く」
「はい、何故か眠ることが出来なかったのです」
「あ、一緒ですね禅ちゃん!私もなんですよー?」
「そうなのですか。奇遇ですね」

うん、いつものひらひらふわふらの服も可愛いけど今のシンプルなのも可愛い。というか禅ちゃんはなに着てもかわいい息子万歳!
ニコニコ笑って沈黙した私を訝しんだのか、禅が僅かに首を傾げた。
「……父上?」
「なんですー?」
「いえ、なんでもないのです」
「ん、ならいいんですー」
「すみません、私が暗愚故に……」
思わず禅の顔をのぞき込んだ。
「知ってます?」
「……なにを、ですか?」
「そういうの、暗愚詐欺っていうんですよ」
得意気に言ってみる。
と、ほんの少し目を見張った禅が、すぐに笑みを形作った。
ひゃー、演技上手い我が子ながら。
「さぎ、ですか?……父上は物知りなのですね」
「大人だもーん☆…じゃあなくて、その演技のことを言ってるんです」
「……演技に、みえるのですか?」
ふ、と、笑った。
「前世持ちの頭脳がありますから、ねー?」
「ぜんせ?」
本当にほうけた顔の禅ちゃんの額を人差し指でコツンと突く。
「そうです前世。……あれ、となると私もある意味詐欺してる…?」
演技もするし、あれ、似たもの親子ですー?
「…………そうなのですか。父上はだからあんなに……」
「死にたくないですからねぇ」
「…驚きました、父上は志を何より大事にされる方だと聞いていたものですから」
「志無いんですけど私」
「は、?」
指を外して、廊下の柱によりかかった。
「志なんかなーんにもないです。ついでに仁も仁徳も無いです」
ふふふ、と禅の笑い方を真似してみる。
うーん、思った以上に先入観が横行してますねー?
いや、別段悪いって訳でもないんだけど、そんなんで親子関係に支障が出てもなー。
「なら、なぜ国を?」
「初めはそういう星の下に生まれたから、としか言えないんですけどねぇ…」
中途半端な理由に苦笑した。
「…今は?」
「落とし込みたい未来があるんです。ぶっちゃけ前世が前世なので、」
そこで言葉を切って、半身を曲げる。
禅の耳元に囁いた。
「これから先のことも、ね?」
す、と早急に離れて、くるりと廻る。元の柱に収まって、今度は苦味の無い笑みを浮かべた。
「………父上は、それに、記憶に、縛られることはないのですか」
「うーん、私の記憶ですし、私のコンセプトは歴史変えたい!ですから、うん。存分に縛られて存分に利用してます」
「そうですか、……父上は、やはりお強い」
目を伏せた禅に手を伸ばして、頭に手を置いた。
「いや、これは私の記憶ですからね。…禅のは、みんな他人のでしょー?」
禅が戸惑いがちに口を開いて、何も言わずに閉じる。しばらく躊躇して、やっと小さく声を出した。
「…きづいていたのですか」
「期待も先入観も、私嫌いですからねー。身軽になりたいです」
「望んだ未来は欲しいのでしょう?」
禅が小さく笑う。悪戯っぽいそれにあわせて私も笑った。
「私欲張りなんですよー」
「おや、巷では無欲だと聞いたのですが」
「ぜーんぶ虚妄☆」
ぽんぽん、と手を動かして、それから離した。こみ上げてきた欠伸を噛み殺して涙を拭う。
「……漸く眠気が追い付いてきました」
「そういえば父上、明日は兵の訓練ではないのですか?」
「あああ!!寝ますおやすみやさい寝不足あかん!!」
ふふ、と優雅に手を振る禅ちゃんを尻目に全速力で走った。
陳宮の部屋の前を通った時に結構な大声で「やかましいですぞ!」と言われてしまったのが非情に悔しい君主の威厳ください!!
自分の部屋が見えたので、慣性の法則に逆らって止まる。
再び寝台に潜って、つぶやいた。
「走ったせいで眠気吹っ飛んだ…!」
やけくそ気味に布団を被り、無理やり目を瞑る。
眠れなかった。






「大変陳宮眠気がマッハ」
「自業自得ですな」




。。。。。。。。
敬語劉禅可愛いですよね!!!!!
劉禅ちゃんは月明かりが似合うと思いませんか、…私だけ?
あと禅ちゃんって呼ばせたかった。
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