そのまま窒息して死ねば?

ああいやだいやだ。
誰もが何かを守るのに一生懸命になってしまっていて、其れ以外はみんな敵だと思ってる。守らなくてもそこにあって、失って初めて気付くくらいが一番しあわせなのに。
「巫山戯るな鍾士季!」
喉元に突きつけられた槍を握りしめる。手のひらからこぼれ落ちた液体が槍を赤く染めた。想像通りの痛みは無表情で隠して、言う。
「至って真面目だが?」
握ったまま一歩引いて、小さく笑う。途端に動いた私の剣が、姜維の足首に突きつけられた。
「何の真似だ鐘会」
「その槍が私を貫いた瞬間貴方の足首裏の健は切れるという脅迫だ」
苦々しく歪められた姜維の顔。僅かな罪悪感はしかし跡形もなく霧散してしまって、自分も随分だと自嘲した。痛みに耐えかねてゆっくりと手を外し、マントで鮮血を誤魔化す。
「私は、…私は仁の世を実現しなければならないのだ!」
「そこまで行くともはや執著だな恐ろしい」
足首の一本はそのままに、今度は頭をつなぐ首へ剣を滑らせた。姜維が僅かに息を詰める。
「執著だ、しかしそれが何だ?私の思いは貴様に理解できない!」
「理解しないししたくない遠慮する」
幕の隙間からこぼれた日光がいびつな影を作り、剣の切っ先は鈍く光った。
ぎりりと奥歯を噛み締めた姜維が吐き捨てる・
「……何故だ鐘会。何故っ!」
「頼まれたのだ」
「誰に、」
光が血痕を生々しく照らし出した。
「蜀のおうさまに」
…え、姜維が小さく声を漏らす。滑り落ちた槍の切っ先はやはり真赤で、しばらく忘れかけていた痛みを思い起こさせた。
「りゅうぜんさまが?」
「そうだが?」
彼は目を見開く。崩れた上体はやがて膝をついた。
「……なぜ、なぜなのですか!」
大きな目はここではないどこかを一心に見つめている。噛み締めすぎた唇は腫れ上がって血をこぼした。
「あなたは先帝の仁を受け継ぐ方の筈です!…そのあなたが、何故!」
湿った重苦しい空気がまとわり付く。息をつまらせたように咳き込む姿は、見世物にすると不愉快すぎる。
そのまま窒息して死ねば楽なのに。……なんて、さすがにこんな時の事実は痛い。
「劉禅殿の守りたいものは、国でなくお前と民だった、それだけのことだ」
真っ赤な手とどす黒いマントをひらりと降った。カツン、と剣を操って、何事かを小さくつぶやいた彼の意識を落とす。首の裏で昏倒するというのは確か嘘だった覚えがあったのだけど、この世界では適用されなかったらしい。
「……殺す訳にはいかないからな」
大事な約束だ。姜維の体を抱えて、隠しもせずに悪態をつき、ついでに槍も抱えてやって、幕から密かに飛び出した。





「りゅーこーしー。お土産」
ドサリと降ろす。ぱちりとまばたきをした劉禅が言った。
「…おや、姜維、だな?姜維が昼寝なんて、珍しいこともあるのだなぁ」
「…そこでまで演技する必要ある?」
「ふふふ、一貫性、と言うのは大事だと聞いたぞ?」
「はいはい」
マントを引っこ抜く。聞き手を開いて言った。
「治療」
「私のような暗愚でいいのだろうか?鐘会殿は私と違って素晴らしい人間だから、私では役不足だと思う」
「何でもいいから治療しろ前置きながいぞりゅーこーし」





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鐘会を紹介しようかい!(二回目)
すみませんこのネタ大好きなんです。
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