見えない世界に微笑む明日

――劉玄徳。
仁君として名高い、劉表の客将。
「…呂布、殿」
そして、“人中最強”を有した男。
未だに割り切れない思いを抱えたまま、張遼は思わず手のひらを握りしめた。



地の利も、数的有利も、統率すらも無く。
唯一の方法とすらいえた陳宮殿の策すらも、当然のように退けられ。
それでも負けはしないと、僅かな希望にみっともなく縋っていた。

そして、負けた。

床に這いつくばって、それでも誇りだけは、と。
耳に届く陳宮殿の言葉が、どうしようもなく虚しく、悔しかった。
戦友とも言えた軍師の最期を、せめてこの身に焼き付けようと、した、時。

「待たれよ!」

声が響いた。
かつて共に戦ったこともあるその男は、呂布軍軍師の側で跪いてみせた。
跪いたのだ。漢王朝の末裔を名乗る男が、安々と膝をついて笑う。
理解できない、が、この男はそういう男なのだと、思った。

「陳宮殿、これからもよろしく頼む」

喧騒も、制止の声も、全てを振りきって笑った男は、まるで悪戯好きの童のような顔をして、ざくりと、縄を解いた。

「……劉備、貴様も物好きだな」
「そんなことはありませんよ、曹操殿」
「ついでに、どうだ?」
ちろり、と曹操は視線を呂布に向ける。
当たり前のように劉備は言った。
「連れて行きます」
その途端、呂布が吠えた。
「巫山戯るな!「うわあ!」
びくりと、肩を跳ねさせた劉備が、困ったように笑って、繰り返す。
「連れて行きます」
「なっ…」
腹立たしげな呂布を手で制した。
「死にたいんですか?態々、ここで?大切な人も守れずに?」
「…………貂蝉」
思わず、という呟きを、劉備は目聡く聞き取る。
「身の安全…というと可笑しい、か。…生活水準は保証しますよ?」

焦ったように曹操が言う。
「劉備」
「……なんでしょう?」
「わかっているのだろう?奴は乱世を呼ぶ」
「乱世の奸雄さんに言われたくありませんよ。…心配しなくても、貴方のお目当てまでは取りません」

目を見開いた曹操が、耐え切れないというように笑い出す。

「……っはは、そうか。ならば何も言うまい?」
「ありがとうございます、曹操殿?」
二人の間で言外に言い含められただろう何かは、張遼には読み取ることが出来なかった。

「張遼」
「……敗将には、語るべき何事もなし」
無念を滲ませた声に、曹操は呆れたような声を上げる。
「敗将とは笑わせおる」

おかしい。
もはや、器などの話では無かった。こうも簡単に将を登用するなど、本来はありえないことだ。
ぎりり、と張遼は奥歯を軋ませる。
食えない、と、曇天に向かって投げかけた。







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張遼かけないよ!!!
ほろびたい!!
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