逆らうための声を差し伸べ

…曹操くんなこっちくんな!
ひっじょうに疑われていた孔明さんが華麗に博望坡を終えた辺りで、思わずそうつぶやきそうになった。
そのまま悶々と考え事をしているとすっかり暗くなってきたので蝋燭の火を付けて、見張りをしていた兵にお疲れさま、と声をかける。新米らしいその兵はやたらと緊張していて、なんだか面白くなった。自室からお菓子を持ってきて、新米兵くんにあげる。
なんども頭を下げるので何かむず痒くなってきて、もう帰っていいよ、と帰ってもらった。
此処の所毎日こんなんな気がする。

「…さてと、片付け」
今日はぐんしーずと一緒に寝る日なので、うかつに散らかしていると諸葛亮にちくちく言われるのだ。……といっても、物がない。暇で作った草鞋とか、暇で作った髪結紐(自分で使う予定はあまりない。今度兵にでもあげよう)とか、暇で作った書簡(竹はそこら辺で拾った。中身はほとんど書いてないし今度文官にでもあげよう)とか、そんなんばっかである。
それ以外は硯と机くらいしか無いので、なんか珍妙な部屋である。

「劉備殿、」
外から声がかかった。まだ片付けが終わっていなかったけど、もう間に合わないので中に入れる。

「ん、まってましたよ二人共ー!……で、今後のお話なんですけど」
「…それよりも、部屋の惨状について教えていただきたいのですが」
「実に、実に雑多な様子ですなぁ?」
「…呂布と翼徳の部屋よりはましですよー!」

隅から地図を持ってくる。
ばっちり正確な地図があるって相当凄いことな気がするんですけどねー?

「まーずーは、博望坡お疲れ様です」

大陸全体の地図と、此処らへん周辺の地図二通りの竹の板を置く。
地図を中心にして三人で座り込むと、陳宮が言った。
「見事な、見事な策でしたぞ!」
「地形が幸いしました。そこまでお褒めいただくことでは…」
「自分はもっと華麗な策を決められるからこれくらいで褒めるな、ってことですねー?」
「大層な自信、自信ですなぁ?」
「…そのようなことは」
「ん、まーこれでインパクトはばっちり、ファーストインプレッションは払拭できた感じですね!」
「インパクトは物理的、または心理的な衝撃のこと、ですな?…ふぁーすといんぷれっしょん?」
「第一印象ってことね!」
「…ファーストインプレッション、ですね。覚えました」
言葉を転がしている二人を尻目に、ぱ、と荊州を指す。

「ここ、どうです?」

二人が同時に口を開く。
「ほしいですね」
「ほしいですな」
重なった二人の言葉を聞いて、やっぱりな、と思う。

「……取った場合のデメリットは?」
「蔡夫人、でしょうか」
「あの夫人は厄介、厄介ですなぁ」
「げ、でた蔡夫人」
思わず顔をしかめる。

「しかし、しかしですなぁ…」
一旦言葉を切った陳宮がくつりと笑う。
「儒教とは時に軽んじられるもの、ですぞ」
「…蔡家こわい!」
「そうですね…、劉表没の隙を突いて曹操が攻めてくるでしょう」
無双世界の蔡瑁は非情に腹黒い人だった。長坂坡の予感に思わず肩を落とす。
「劉?かわいそす…!」
「人とはそういうものです」
「よく言うと子供を大事にするとも……いえ、言えませんな」
次に長坂坡を指す。
「じゃあもう荊州はとりあえず諦めよう」
「……悪評、悪評を立ててまで得ても、蔡家が居る以上正直めりっとは少ないですからなぁ」
「今、荊州の民は蔡瑁に印象操作されていますからね」
「印象操作っていうとかっこいい!…じゃなくて」
するりと荊州から夏口への道筋を指す。
「逃げようか」
「そうですね、逃げましょう」
「隠密に準備を進めるとしますかな」
「ん、ありがとう。宜しく頼みますー!」

つかれた、と地図を隅に押しやる。凝り固まった肩を回すと、広めの寝台に二人を招いた。

「被害は、被害は最小限に留めてみせますぞ」
「はい。ご安心下さい我が君」
「……頼もしいけど敵に回したらって思うとぞっとするね!」
――まあ裏切るなんてありえませんもんねー?

「この陳公台、信頼、信頼には答えてみせますぞ!」
「当然です、劉備殿」

ふっと、蝋燭の火を吹き消した。
「それじゃあ、また明日」



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長坂坡への準備話です。
軍師は仲いいです(二回目)
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