不可測の可能性

その頃は、正直自分が劉備だなんて気づいていなかったんですよ。
同姓同名なんてこの時代あるんですねー?なんて、馬鹿なことを平然と思って生きてたんです。
だからなんでしょうね。
話しかけられたその特徴的すぎる男が、翼徳だと気が付かなかったのは。


「おい、お前」
「ひょわっ?!」
思わず変な声を上げた。振り向くと、もじゃもじゃした髭の、大きな男が立っていた。
どこかで見たような気がしますねー?顔が怖いですけど。
単に強面なだけじゃなく、意図してコチラを睨みつけているような顔。
な、なんなんでしょー…?
今日も草鞋があんまり売れなかったせいで一汁三菜が守れずに一汁一菜にするか二菜にするかで悩んでただけなんですけどね!私って無力!財力的な意味で。
「おめぇ男のくせに高札の前で溜息つくたぁ何事だ!!」
「…え、……いや、無力だな、と思いまして」
財力的な意味で。大切なことなので二度以下略。
何故かバツの悪そうな顔をした大男は、頭を書くと急に馴れ馴れしく言う。
「あー…そうだったのか。悪かったな、勘違いしちまって」
「……いや、そんなことは、」
勘違いに勘違いを重ねてる気がするんですけどー…、あの、大男さん?
「ならよ、俺と一緒に行かねぇか?おめぇは何か、他のやつと違う気がするんだよ」
「へ、…私、ですか?」
大男さん、勘いいですねー!こう見えて結構焦ってますよ私ー…。
他のやつと違うってそうですけど?私他のやつと違いますけど、えっと、それでなんで私なんですか?そもそも何の話をしてらっしゃるので?
「おー!そうと決まれば酒だ!俺肉屋やってんだけどよ、近くに良い酒屋知ってんだよ!」
「…は、はぁ」
それよりあの、おかず…。
未だに名前も知らない大男に引きずられながら、なんとかその高札を見る。
黄巾賊と義勇軍の単語を拾い、数十年越しに気がついた。
――“劉玄徳”の、名前の重さに。
そして理解した。
あ、こいつ張飛か。



とりあえず酒屋に着いた。
飲む気まんまんの張飛……この後桃園やるから翼徳だっけ?が酒を持ってくるのを尻目に関羽…あー、雲長を探してみる。
確かここで雲長に会ってそれで意気投合して翼徳ん家で桃園だよね?
そこまでトントン拍子にいくとは思えな……
「お主達」
へ、
……まさか。
「昼間から此処で何をしている」
拒絶反応を示す首を無理やり動かして後ろを振り向くと、豊かな髭を携えた大男2が立っていた。因みに1は翼徳…ってそういうのは関係ないですね!
「俺ら二人で黄巾の野郎をぶちのめしてやるんだよ!その景気付けだ!」
ぶっちゃけそれにかこつけて酒飲みたいだけ…って当たり前のこといっちゃった!てへぺろ!
…なんかテンションおかしいですねー!
自分がイライラしてるのは分かるんですけど、何にイライラしてるのかさっぱりわからないんですよ。
平静さは大切ってわかってるんですけど。
「おお!それは丁度いい。実は拙者も義勇軍に志願する身なのだ」
あ、なんかまたイラっときた。
うーん、この二人に不快感を感じてるってわけでは全然全く無いんですよねー…。逆に好ましいと思ってますしー?
ほんとになんなんでしょうね?
……というか私さっきから無言ですね。傍から見たら無愛想な人じゃないですか。
「そりゃあ偶然だ!どうだ、一緒に飲まねぇか?」
「……む、ならば宜しく致す。拙者は関雲長と言う」
「ああ、よろしく頼むぞ。私は劉玄徳だ」
なんとなく劉備っぽいことを喋りつつ、はぁ、と心のなかで溜息を付く。
それでも仲良く盛り上がり、ほくろが72あるあの人の子孫だよ的なことを言ったら大盛り上がりし、俺の勘あたるぜーと翼徳が大はしゃぎして、それから何故か髭の話に移り、髭の大切さについて切々と語られたり何だったりしたが、まぁそれはいいだろう。
問題はその後だ。
「なぁ、俺ら義兄弟にならねぇか?」
言い知れない違和感がどろりと胸を満たす。
ある種の反発と拒絶を含んだそれがどうにもならなくて、そして唐突に気がついた。
――歴史をなぞることへの不快感。
そうだ。わたしのこれは、それなのだ。
なるほど、
……すっきりしました。
自分でも驚くくらいすっきりしましたよー。じゃあ、そうですね。
「それは名案だ翼徳!…劉備殿はどう思われる?」
とりあえず前提はハッピーエンドです。幸せになりたいです私。
「ああ!勿論だ!私なんかと、ありがとう。二人共」
そのためにはまずこのフラグは回収しておくべきですね?
「それは此方の言葉です劉備殿。しかし、その為の儀の場所を確保せねばなりませんな」
歴史は壊すつもりでいますけど、ただ壊せばいいってもんじゃないですからね!
「俺の家の裏に桃園があるぜ?どうだ?」
繰り返しますけど、前提はハッピーエンドですから。
「おお!凄いな翼徳!」
元平成人として、平和と平穏は何よりも愛するものなのです。
「意外と役に立つではないか」
そのためなら多少の大義とか仁はポイしますけどね。
「意外とじゃねぇぜ関羽…!」
私と民、どちらかと言われたら勿論民ですけど。
「ははは、冗談だ翼徳」
「既に兄弟のようだな、二人共」
守りたくても、私一人じゃ守りきれないものを、
少しでも多くの力で守りきれるように。

私は歴史を壊すと決めた。






。。。。。。。
あれー?桃園の誓いしてないぞー?
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -