いつかどうかきみが

月明かりだけが明るい夜を睨みつけて、うんざりだと見を竦める。

めんどくさい。
何が英才教育なのか。えーさいきょーいくっていう人に限って噛ませだったりするのだ。
めんどくさい。
何が天下だ。皆さん志なんて言葉飾ってらっしゃますけど結局それ野心ってやつでしょう?平和ならそれでいいんです。
ねぇ、そうおもいませんか、劉禅殿?

……なんて、口には絶対出さないけれど。
この人は怖い。偶然装ってなんか一緒に酒なんて飲む羽目になっているけど、何も考えていない、やさしい暗愚の仮面を被って生きているような人なのだ。
ああでも、やっぱりなんだかめんどくさい。
なんで私が劉禅殿の細かい機嫌なんか考えてやらないといけないのだ。そこはかとなくどうでもいいと思う。
だってもうちょいで乱おこして死ぬらしいし。
…んじゃもうやっぱもういいや。

「劉禅殿、」
「なんでしょう、鐘会殿」
「めんどくさい」
「……司馬昭殿の、真似、か?上手だなぁ」
「ちがう。本心だ」

意味ありげに細められた目を無視する。だから、そういう腹の探り合いがめんどうだって言ってる。

「意外だなぁ。鐘会殿は、あまりそういうことを言わない人かと思っていた」
「人は演技ができる」
「…私は暗愚ゆえ、そんなことは思いつきもしないのだ」
「勘違いするな。貴方の暗愚詐欺はどーでもいい」
隣で劉禅殿が息を飲む。ああだからめんどくさいって言ってんじゃん。
「私には検討も「だからどうでもいいって」
はぁ、と溜息をつく。やけくそ気味に酒を煽り、庭に杯を放り投げた。
「国とか、野望とか、どうでもいい。だいたい乱世は終わりかけなんだ。どうしてわざわざ乱を起こす必要がある?」
ふふ、と劉禅殿が笑って、酒を流し込み、同じように宙に放る。
「……そうだなぁ。私もそう思う」
「げ、本性だした」
思わず顔をしかめる。死ぬ直前にこういうのは何か、いやだ。
「劉禅殿、」
「何だ?」
「私が死んだらよろしく」
横で微笑んでいるだけだった彼が、ぐ、と身を乗り出して、私を覗きこむ。
「鐘会殿は、どこか体でも悪いのか?」
そんなことはありえないって、知っているくせにこの人はこういうことを言うのだ。
「……そーゆーところがめんどうだ」
「そうか、すまない。私は暗愚ゆえ」
「…………乱おこして死ぬから、何時もみたいに笑って嘲笑って、それで、」
――彼のものであるはずだったこの体を、この頭を、褒めてあげてくれると嬉しい。
「……鐘会殿は不思議なことを言うのだなあ」
「…めんどくさいので簡潔に言うと、この肉体は本当は私のものじゃなくて、んでその彼は今までの私のような行動をとってそしてもうすこし後に反乱おこして死ぬ。だから、よろしく。あ、因みに姜維も死ぬんで」
くすりと笑う。ああ死ぬんだろうな、なんて思うと久しぶりに怖くなってきた。

にわかに気分の重くなった私を無視し、青白い月明かりを写した劉禅殿はいつもの様に笑ってみせる。
「死ぬのか、それはいけない。乱などやめよう」
「……は?」
まさか本当に暗愚なのかこの人は。なんて、思わず顔を見つめる。
彼の目は、確かな光を帯びていた。
「やめてしまおう。たとえ本当は違ったとしても、鐘会殿は貴方だけ、だろう?」
――死に方くらい決めてしまうといい。

「……そう、か?」
「そうだ。それがいい。やめてしまおう」
立ち上がって庭に降りた劉禅殿が、うっそりと笑う。
「民も、君も、私も嫌がるのだろう?ならばもう、やめた方がいい」
はぁ、と溜息をつきかけたのをこらえて、庭に足をつけた。
「……意外だな、劉禅殿は、あまりそういうことを言わない人かと思っていた」
「人は演技ができる」
「…私は頭が硬いから、そんなことは思いつきもしないのだ」

顔を見合わせる。耐え切れなくなって、二人で笑った。

「よし、決めた。私は反乱をしないことにする」
「うん、それが一番だ。……さて、と」

隅の杯を取って、得意げな顔の劉禅殿が言う。

「飲もう」

今度こそ溜息が漏れた。
自分の分の杯も取って、杯を掲げる。
「飲まなくても、いくらでも話はしてやるぞ」
「ふふっ、それが一番楽だなぁ」




。。。。。。。。

私の中で空前の劉禅様ブームです。
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