タイムリミットに火種を落とす

鍛錬はつかれるものである。星彩は手加減をしてくれないから、槍で相手をするとすごく大変だ。やっぱり細剣が一番使いやすいと思う。趙雲がそうだから、という理由でなんとなく槍になってしまっているけど、私の手には重すぎた。只周囲が期待するような目で見てくるので、ずっと槍なだけで。
……いつか見たきれいなあの剣は、多分倉庫に眠っているんだろうな。
まぁ戦になったら言ってみよう。あの剣でやらせてくださいって。今でもこっそり細剣で鍛錬しているし。

ぐだぐだとくだらない思考を放り投げて、城の窓から飛び降りる。
二階ほどの高さから危なげなく降り立つと、細い抜け道を使って少し山の方に入っていく。

控えめな川が流れるこの場所は、私だけの実験場になっている。
といっても怪しいものではなく、実験と言っても畑や料理の出来を試したりするだけだ。
簡素な調理台とツルハシと桑がある。ノーフォークの試運転を行ったのもこの場所で、それなりに思い入れのある場所だ。
どれどれどうかなーと呑気に畑を覗きこんで、思わずぽかん、と。

「…どう見ても甜菜…?」

甜菜、サドウダイコンとも呼ばれる。その名の通り砂糖を作ることが出来、葉は肥料や家畜の餌にもなる。ちなみに大根ではなくほうれん草の仲間。
その甜菜が、調理台の上に山と積まれていた。思わず駆け寄って確かめると、しっかり品種改良された現代のもので。
「ええ、と…」
とりあえず甜菜の入っていた籠を調理台から退けると、下に紙の封筒があった。
どう見ても現代の茶封筒。中を見ると種が入っている。甜菜の種だ。
正直意味がわからない。
が、とてもうれしい。
砂糖を思う存分作ることが出来るからだ!
砂糖が使えればお菓子が作れる!葉っぱは良質な肥料になるし、いいことづくめと言うやつだ。心配なのは気候だが、あれこれ植えても何故か大丈夫という不思議な畑の上、中国でも生産されているからまぁ大丈夫だと思う。
……魏のすっごく北の方でしょとか言ってはいけない。

「…とりあえず砂糖を作ってみよう」

保存しておいた火種を取り出し、薪に火を点ける。
ちゃっちゃか鍋に水を入れて、作ったかまどにセット。水が沸騰するまでに甜菜を4〜5mm角の軸切りにしておく。温度は70度くらいらしいけど、ぶっちゃけカンだ。
甜菜入れて、卵から作った石灰をちょちょいと入れていく。
若干黄緑がかった琥珀色の上澄みをねばつくまで煮詰めるとビートシロップ――砂糖の素が出来る。
これを別の鍋に移し替えて更に煮詰め、飽和させる。
と、粒状になって砂糖ができる!

「出来た……!」

感動に小さく拍手する。早速クッキーでもつくろう。
小麦粉はないけど砂糖はある!…から大丈夫だ。多分。






「おお!うまいな劉禅、何処で貰ったのだ?」
もぐもぐとクッキーを頬張りながら、興味深げに父上が聞く。
張飛がどか食いしていたりするのを傍目に見つつ、ゆったりと笑みを形作る、
「散歩に出たのです。そうしたら、民から」
勿論嘘だ。
それでは、と立ち上がる。
なにか言いたげな孔明をちらり、と見て。口元で人差し指をたてた。

――ああ、あれは、私が作ったってバレてる、な。

まぁいいか、と自室に戻る。
そろそろ潮時なのかもしれないなんて思いながら。
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