幸せには遠けれど

パチリ、パチリ。
朱色が視界を埋める。燃え広がる炎を眺めながら、誰も居ないのをいいことに悪態をついた。

「…誰か助けこいや」
ありえない。魏のやろ、人呼びつけといて炎の中に置き去りとはどういうことだ。魏さえ呼び出してこなけりゃ今頃劉備さんの所で軍師やってたのに。

木材の隙間に埋まった左腕がどうにも抜けない。これで右足怪我してなかったら腕ぶった切って逃げたんだけど、あいにく誰かの矢で射抜かれてしまった。多分呉だな。んで矢は孔明が集めたやつだ。
というかそれ以前に撃剣がはるか遠くに吹っ飛んだ。船の出入り口あたりに転がってる。
いいなーあっちの船ほとんど燃えてないじゃん誰か助けにこいやー!

……んにゃろ。
煙で息がうまく出来ない。目に染みて涙出てきた左足痛いフードあっつい腕抜けろ!!
まだ死にたくない二回もこんな早く死んでたまるかこの野郎!

やけくそで床に打ち付けた右足がじくじくと痛む。こっちも捻ったかなんかしたか。
ああ。もう!

「…こんなところにいたのですか、徐庶」

聞き慣れた懐かしい声がした。
考えなくてもわかる。白羽扇を構えて聞き取りにくい声でしゃべるこの声は孔明だ。

「孔明、腕を斬ってくれ!」

気がつけば叫んでいた。
撃剣のさやが落ちる音がして、ああ、怖いな、と。今更ながらに。
ざくり、と。

「貴方の言うことを聞くことは出来ません」

挟まった腕の、少し上。器用に撃剣を投げつけて。
抉れた木材がぼとりと床に落ちた。

……抜けそうか。
いや、何としてでも抜くのだ。

体重も使って腕を引っ張る。ぎりぎりとした痛みが脳を侵食していくから、目の前でゆらゆら揺れる炎に視線を委ねていくことにした。

「ぬけ、た!」

衝撃でひっくり返る。いまいち動かない体を無理やり動かして起き上がった。撃剣を引っ掴むと、悠然とした顔で立っている孔明の真横をすり抜けて、逃げ――!

「待ちなさい」

……られなかった。
フードを掴まれて立ち留まる。足の痛みに思わず跪いた。

「なんだ孔明、助けた後で殺すなんてことはやめてくれ」
「しませんよ。……劉備殿に付いていく気は有りませんか」
「…孔明、それは甘すぎる」
手を伸ばしそうになるから、やめて欲しい。

「貴方のために言っているのではありません。劉備殿のために言っているのです。貴方は劉備殿の力になれます。今ならまだ間に合うのです」
「…力に、」

そうだ、私は着いて行きたかったのではなかったか。八門金鎖の陣を破った程度ではまだまだ飽き足らない。もっと彼の力になりたい。

孔明が薄く微笑んだ、ような気がした。
「もう一度聞きます。徐庶、貴方はどうしたいのですか」
「……孔明、連れてってくれ。俺を、劉備殿のところに」

差し出された手をとって、片足を引きずりながらも身を起こす。
今度はもう、迷わなかった。







。。。。。。。。
徐庶可愛いです。


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