「ただいまー!」
ドタドタと階段を駆け上り、勢いよく自分の部屋の扉を開いた。リビングから母さんの不満げな声がしたけど気にしない。…でも自分の部屋に入るのにただいまって変だよな。ヤバ、と口を覆うが今更どうにかなるわけでもない。まぁ今日くらいいいか。
「あ」
一度深呼吸をしてから部屋に足を踏み入れると、部屋は真っ暗だった。これは絶対南沢さん怒ってる。恐る恐る電気のスイッチを入れると、南沢さんは腕を組んで眉間に皺を寄せて……。
「あ、れ?」
俺の予想を裏切って、南沢さんは畳まれたハンドタオルの上ですやすやと眠っていた。ほっと息を吐いて鞄を下ろして制服からジャージに着替える。
「おかえり」
その間に目を覚ましたらしい南沢さんの掠れた声がした。ただいまと返すと小さく南沢さんは欠伸をして立ち上がった。
「やっぱり明日からは学校連れていけ。暇で死にそう」
「でも危ないっすよ」
「お前が守ってくれんだろ?」
相変わらず南沢さんは女王様だ。守れませんなんて言ったら何を言われるか。仕方なく了承の返事をすると南沢さんは満足そうに笑った。悔しい思いをしてるくせに、俺も南沢さんに甘いと思う。その証拠に、俺は南沢さんの目の前に紙袋を置いた。
「何これ」
「南沢さんにプレゼント」
「夕飯?」
首を傾げる小さな南沢さんのために、俺が代わりに中身を取り出した。どうだいいだろうと南沢さんを見ると、しばらくぽかんとした顔をして、そのあと吹き出した。
「なっ、何で笑うんすか!」
「だってこれ人形のお家に置くようなやつだろ?お前1人でこれ買ったわけ?」
「う、ま、まぁ…。そりゃ恥ずかしかったですけど。南沢さんがこれで過ごしやすくなるかな…と……」
よかれと思ってやったことなのに、そんなふうに言われたら俺だって。ほっぺたがやけに熱い。と同時に何となく腹立たしさも湧き出てきて。
「倉間」
俯いてしまった俺に南沢さんが声をかけた。机に置かれた俺の手にそっと触れて、もう一度俺の名を呼んだ。
「ありがとな」
「今日の夕飯までパンですからね」
「まじかよ…」
俺の照れ隠しに南沢さんは心底嫌そうに溜息を吐いた。