寝過ごした。慌てて起き上がって時計を見ると、もう一限が始まる時間。もちろん部屋に倉間の姿はない。ご丁寧に俺が寝ている机の上には置き手紙があって、けれどそこには行ってきますの一言しかない。ふざけてんのか。

布団の代わりに使っているハンドタオルを畳んで端に寄せた。それから倉間が置いていってくれたらしいパンをかじる。

「何で三食パンだけなんだよ…」

何もないよりマシなのはわかっている。けれど倉間の家に来てからずっと菓子パンだけというのは辛いものがあった。あいつ俺のことペットかなんかと勘違いしてんじゃねぇの?動物に餌をやる感覚でいるに違いない。倉間ならあり得る。

「ま、この大きさじゃまともなものは期待できねぇよなぁ…」

昨日倉間に持ってきてもらった鞄に入っていた自分の携帯を開く。何故携帯を開くだけでこんなに力が要るんだと腹を立てながらも新規メール作成画面をどうにか表示させた。宛先は言うまでもなく倉間。本文は置き手紙に対抗しておはようの一言だけ。返事が来たら夕飯のリクエストでもしてやろう。送信ボタンを押して、達成感に浸る。

しかしすぐに昨日の選択は間違っていないことに気付いた。明日は寝過ごすまいと心に誓う。

「…つか昼飯も兼ねてんの?このパン」

ふとあの日倉間の鞄に忍び込んだのは選択ミスだったんじゃないかという不安に襲われた。…三国あたりのが良かったかもしれない。俺の溜息はいつもより広い倉間の部屋の空気に溶けて消えた。









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