机の上に胡座を掻いて南沢さんは菓子パンの欠片をもぐもぐと食べていた。最初はおにぎりでも、と思っていたが母さんに不審がられそうなのでやめた。それにちょうどいい大きさがわからない。そこで仕方がなく俺が隠しておいたおやつもといパンを南沢さんに食べてもらうことにしたのだった。
「ねぇ南沢さん」
「何?」
椅子に座り黙ってその様子を眺めていたのだが、何も解決しそうにないので食事中の南沢さんに声をかけた。南沢さんは咀嚼していたものを飲み込むと目の前のパンから視線を此方に移した。
「何で小さくなっちゃったんすか」
「わかんねー」
「何で俺んちにいるんすか」
「お前のロッカーが開いてたから」
「ロッカー?」
「そ。部室のロッカーが開いてたから、カバンに潜り込んだ」
「じゃあ部室で小さくなっちゃったと」
「だからまだユニフォームなんだよ」
そっかそっか、少しだけ状況を理解した。重要なことは何もわかってないけど、何故かこの事件が解決に向かって進展したような気がした。全然進んでなんかないけど。
「ちなみに荷物もそのままだから」
南沢さんは再びパンをかじる。だからなんだと言いかけて、ハッと息を呑んだ。
「じゃあ誰かが南沢さんのロッカー覗いたら騒ぎになるじゃないっすか!」
「だからお前明日持ってきてくんねえ?ここでいいから」
「そりゃ構わないですけど。家とかは平気なんすか」
「あー……携帯貸せ」
面倒臭そうに南沢さんは手を突き出す。しかしそうしたところで携帯は持てないだろう。俺はポケットから携帯を取り出して、開いてから南沢さんの前に置いた。南沢さんは何も言わずに両手で番号を入力し始めた。どうにか何桁かの数字を打ち込むと一つ息を吐いてから通話ボタンを押した。音は最大にして、マイクの側に顔を寄せる。しばらく呼び鈴が鳴った後、はい、と女の人の声がした。
「今日からしばらくサッカー部の合宿で帰れないから」
「えっ?そういうことは早く言いなさいっていつも言ってるでしょ?着替えとかはどうするの」
「…明日取りに一旦帰る」
そんなこと言って平気なのかと何故か俺の方が不安になった。何故小さくなったのか原因すらわからないのに。俺がそんなことを考えているうちに南沢親子の会話は終わったらしい。気付けば南沢さんが電源ボタンを押すところだった。
「もし俺が明日までに元の大きさに戻らなかったらお前が家まで取りに行ってくれ」
「人使い荒い……」
俺のぼやきに南沢さんは微笑むと、よろしくな、と優しい声で言った。思わず視線を逸らして俺は了解の返事をしてしまう。
南沢さんはきっと、俺がその声とその顔に弱いのを知っているのだ。