床に放られたカバンが不格好に転がっている。
歪んだ形のまま放置されたカバンが、重力に従って徐々に傾いていく。俺はそれをなんとなく眺めながら、制服のまま仰向けにベッドに倒れ込んだ。
ぐるぐる、今日の部活を思い出しては歯軋りをしたり眉間に皺を寄せたり時には涙を滲ませたり。
ああ、明日からの部活はどうしようか。
ぼんやりそう思いながら、そっと目を閉じた。
ぺちぺち、ぺちぺち。
何かが俺の頬にしきりに当たってくる。でもその何かが何かはわからなかった。いつの間にか寝ていたらしい俺が目を開ける前に、信じられない声が聞こえた。
「おい倉間、いい加減起きろ」
まだ夢の中なのかもしれない。そうでなければありえない。きっと寝る前に考えていたから夢にまで出てきたのだろう。それならこの頬に当たる何かについても説明がつく。何だって夢なら許される。
「夕飯だっておばさんが言ってるぞ」
目をきつく閉じて無視を続ける。確かにどこからか母さんの俺を呼ぶ声が聞こえたけど、これは夢。
「起きないと産毛抜くぞ」
「いってえええええ!!!!!」
恐ろしい脅迫に返事をする前に、刺すような激しい痛みに襲われた。思わず飛び起きると、やっと起きたな、と溜息混じりの言葉が下から聞こえた。
…下?
自分の言葉をふと疑問に思う。人の声が真下から聞こえるなんてあり得るだろうか。考えるより感じろ、そう思って下を向くと、ベッドに手をつくその俺の手のすぐそばにその人は腰掛けていた。
「えっ………、南沢さん……?」
「おはよう、倉間」
「な、なな、何で…」
何で。その一言に尽きる。突っ込みたいところはたくさんあった。何で今日俺の前から姿を消したはずの南沢さんが何でもないように現れたのかとか、何で俺の部屋にいるのかとか、何で………、何で小さくなっちゃってるのかとか。
「典人?ご飯だって言ってるでしょう。聞こえてるの?」
トントンと部屋をノックする音にハッと俺は顔をあげた。このまま母さんに入ってこられても困る。俺だって何もわかってないのにこの南沢さんをどう説明したらいいと言うんだ。とりあえず今行くと大声で返事をして、夕飯持ってきますと南沢さんに告げると慌てて部屋を出た。