「今日の夕食は何がいいですか」

すっかり暗くなった道を歩きながら、俺はそう尋ねた。少しの沈黙のあと、胸ポケットから何でも良いと返事が返ってきた。俺はその返事にむ、と顔をしかめた。

「そういうの一番困るんすよ」
「じゃあおれがうなぎ食いたいって言ったら食べさせてくれんの?」
「そ、それは無理っす」
「全部そうやってお前が用意したら金がどんだけかかると思ってんだよ。ちょっとお前の夕飯分けてくれりゃいいよ」
「それができりゃ最初からやってます」

俺だって小遣いが南沢さんの食費に消えていくのは嬉しくない。できれば南沢さんの言うとおりにしたい。でもそれは初日にチャレンジしようとして諦めた道だ。

「ならバラしちゃえば?」
「……はぁ!?」
「わっ!?」
「…え」

突然何を言い出すんだこの人は。思わず大声を出してしまった俺の背後で、明らかに俺達以外の誰かの声がした。しかもこれは聞き覚えのある声だ。後ろを振り向こうとする俺の動きはまるでサビたロボットのようだった。

「は、速水」

振り返った俺の視界に入ったのは先程学校で別れたはずの速水の姿だった。速水は明らかに挙動不審で、ちらちらと視線を此方に投げかけてくる。おそらく速水には南沢さんの声は聞こえていないはずだ。今、速水の中では突然大声を出した俺に対する疑問でいっぱいなのだろう。まだ間に合う。取り繕える。

「よ、よう、何だよ」
「…あ、あああの、部室で倉間くんがこれを落としたので…。倉間くん、気付かないで行っちゃうから届けに来たんですよ」
「あっ、俺の財布!」

速水が俺に差し出したのは、ポケットに入れたはずの俺の財布だった。危うく一晩部室に放置になってしまうところだった。気付いたのが速水で良かったと、俺はそれを受け取って笑顔で礼を言った。

「サンキュー!」
「!わ、わ、倉間くん……、そ、その、」
「え?どうしたんだよ」
「む、胸ポケット…!」
「胸ポケット…、……あ」
「あーあ」
「ど、どういう…」

うっかり正面を向いて受け取ってしまったため、思い切り南沢さんを見られてしまった。ポケットの中の南沢さんが責めるような視線を送ってくる。何だよそもそも南沢さんが変なことを言わなければ。明らかな責任転嫁だけれど。

「倉間、速水がキャパシティオーバーで倒れるぞ」
「えっおい速水落ち着け!」

南沢さんの声に我に返ると、速水がふらふらと倒れる寸前だった。慌ててその体を支えて息を吐く。しかしそこで更に事件は起こる。

「あれ?倉間何やってんの?ちゅーか速水どうしたの?」

おそらく速水が戻ってこないのを不審に思ったのだろう、浜野までやってきてしまった。とりあえず南沢さん隠れろよ!と念を送ってみたが、それが届く前に浜野に何それ南沢人形?とバレてしまうのであった。







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