▼誘惑する甘い罠
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最近、俺は欲求不満なのかもしれない。夢の中に大好きなヒロインの名前ちゃんが出て来る。それも一回ではなく毎日のように。

そして見る夢の内容は、ヒロインの名前ちゃんと手を繋いだり、お互い抱きしめ合ったり、頬やにキスをしたりというものだった。それ以上のことは見ていない。昨日までは。


「ヒロインの名前ちゃん、ごめんなさいねぇぇぇー!」

「何がですか?」

「いや、俺が謝りたかっただけだから気にしないで!」


目の前で何も知らずににこにこと純粋無垢な顔をしているヒロインの名前ちゃんを見て後ろめたさを感じ、罪悪感に耐えきれず謝罪をした。

恋人でもない俺がほぼ毎日ヒロインの名前ちゃんの夢を見ていると言ったら彼女はドン引きするだろう。絶対にする。だって俺ですら引いてるもん。俺が女の子だったらキモイって思うもん。

昨日はヒロインの名前ちゃんが俺を押し倒して、スルスルと着物の帯を外していく夢。肌が露になりかけ唇が触れそうになった瞬間に目が覚めた。現実では起こりえないので少しばかり残念に思う気持ちもあるが、日に日に凄いことになっているためさすがに気が引ける。


「善逸さん最近変じゃないですか?顔が赤いし、熱があるんじゃ…」

「え、ちょっ!!ヒロインの名前ちゃん?!」

「…うーん、熱はなさそうだけど…風邪の引き始めかもしれないですよ?今日は休んだらどうですか?」


ヒロインの名前ちゃんは俺の額に自分の額を当てて熱を測るとそう言った。こんなドキッとすることを不意打ちでされて、しかも俺はヒロインの名前ちゃんが好きなのだから、喋っているだけで顔が赤くなるに決まっている。なんて言えない俺は彼女の言う通り部屋へ行きベッドへ横たわる。


「はぁぁぁぁぁー、顔近かった…あとめっちゃ良い匂いした!!!!!」

(というか何事もなかったかのようにおでこくっつけてたけど誰にでもするのかなぁ、そんなの嫌だなぁ…)


そんなことを考えながら俺は枕に顔を埋めた。何だか良い香りがしてヒロインの名前ちゃんが傍に居るような気さえしてくる。そのほのかな甘い香りに包まれながら俺は眠りに落ちていった。

日が傾き始めた頃に俺は目を覚ました。体を起こして溜め息を付く。またヒロインの名前ちゃんの夢を見た。そして今度は俺が彼女を押し倒していたのだ。もう何なんだいったい。

そりゃあ俺も男だから、ヒロインの名前ちゃんのこと抱きしめたり、キスをしたり、それ以上のこともしたいと思う。けどまだ付き合ってもいないんだよ?告白すらしてないの俺!なのにこんな破廉恥な夢ばかり見てごめんなさいね!!!


「夢は願望の現れっていうからなぁ…」

「どんな夢を見たんですか?」

「それは言えな、えぇっ!!いつ、いつから?!いつからそこに居たのヒロインの名前ちゃん!!!」

「善逸さんが起きる少し前から」


まったく気が付かなかった。それよりも寝言とか言ってないよね?夢の内容がヒロインの名前ちゃんに知られたら嫌われる!!それだけは嫌ぁぁぁぁぁ!!!


「ねぇ、善逸さん。教えてください」


そう言って、ヒロインの名前ちゃんは微笑みながら俺に近付いてベッドへ腰をかけた。もしかしてこれって夢の続き?いやいや、落ち着け俺。ここは現実だ。


「夢の中の私と、善逸さんはどんなことをしたんですか?」

「な、なな、何言ってんの?!夢なんて見てないってば!!」

俺は慌てながら上手いことはぐらかそうと別の話題を考えるが頭が真っ白になって出てこない。すると彼女は俺の上に覆いかぶさるように体を寄せて、俺の頬をゆっくりと撫でた。


「異国ではその人の匂いを嗅ぐとその人が夢に出てくるおまじないがあるんですよ」

「な、なんのこと?」

「まだ気付きませんか?善逸さんの枕に私の香水を付けていたんです」


洗濯をした後にこっそりと、とヒロインの名前ちゃんはにこにこと笑いながら言った。もしかして俺があんな夢を見るようになったのは、彼女の匂いを嗅いだまま眠っていたから?なんて単純なんだよ俺は!


「我慢するのも疲れたので、自分から行動を起こしてみました」

「が、我慢?!」

「善逸さんが私に触れてくれないので」


その言葉を理解した瞬間、俺はヒロインの名前ちゃんをぎゅっと抱きしめた。上手く誘導されていた。手のひらでころころと転がされていたんだ。そんな小悪魔なところも可愛い!


「このおまじない、効果抜群ですね」


ヒロインの名前ちゃんはそう言って、ふふっと笑いながら俺の首に腕をまわし、甘い香りで俺を誘惑してくるのであった。




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