▼大切な人同士
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私は無力だ。目の前で大切な人が戦っているにも関わらず私は戦う力を持ち合わせてない。
運良く選抜で生き残れただけで、呼吸もろくに出来ず、型を習得できない、ただの凡人な私は冨岡さんが傷付くのを見ていることしか出来なかった。
炭治郎たちのように隣で共に戦うことも、背中を守りながら支え合うことも出来ない。
「…ぐっ!」
「冨岡さん!!」
鬼との戦いで傷だらけになった冨岡さんに駆け寄る。血が流れ苦痛に顔を歪める彼を見ていることしか出来ないなんて。非力な自分をこんなにも憎んだことはない。
「構うな!下がっていろ!」
冨岡さん言葉に、私はぶんぶんと首を横に振る。このまま彼を置いて逃げるなんて出来なかった。死んでも良いから冨岡さんの役に立ちたい。
「お前がここにいても足手まといだ」
そう言って冨岡さんは血だらけの体を酷使しながら上弦の鬼に立ち向かって行く。私は守られることしか出来ないのだろうか。ずっと守られてばかりで私は何も冨岡さんに返せていない。
「お前はここで死ね!」
鬼が叫びながら冨岡さんに向かってくる。あまりの疲労と出血で立ち上がれなくなった冨岡さんを守るように腕を広げ、私は鬼の前に立ち塞がった。変わりたい。何も出来ない私から。
「ヒロインの名前!どけ!」
「冨岡さんはいつも私を守ってくれました!だから今度は私の番です!」
走馬灯のように鍛錬の日々を思い出す。いくら時間をかけて鍛錬を続けても何も変わらなかった。けれど今、強敵と対峙したことによって自分が変わっていっている感覚がする。すると今まで何故呼吸を上手く使えていなかったのかが分からないほど上手く出来た。身体中が熱い。
「これ以上大切な人を傷付けさせない!」
「ヒロインの名前…お前、呼吸が…」
鬼は完全に私の事を意識していなかった。戦えない者として完全に気を抜いていた。だからこそ隙をついて首を斬れた。
崩れていく鬼の姿を見て、私は安堵のあまり腰が抜けてその場に座り込んだ。守れた。
「あんな危険な真似を…いや、お前のおかげで助かった」
ありがとうと言って少し微笑む冨岡さんに、私の心臓は跳ねた。そんな顔して笑うなんて反則だ。顔が熱くなるのを冨岡さんに悟られないように、私は下を向いて顔を隠す。
「…そういえば、お前にとって俺は大切な人なのか?」
「え!?えっと、それは、その……はい」
「そうか、なら同じだな」
その言葉に驚いて咄嗟に冨岡さんの方へと顔を向ける。すると彼は満足気な顔をしながらムフフと変な笑い方をした。深い意味はないのかもしれないと思い、気持ちを落ちつかせて冨岡さんに笑いかける。
「大切な仲間ですもんね」
「いや、それ以上だ」
さらっとそう言うと冨岡さんは、ゆっくりと私の頬に手を滑らせ親指の腹で唇をなぞってくる。あまりの出来事に驚きを隠せず目をぱちくりとさせていると、冨岡さんは、続きは帰ってからにしようと優しく微笑んだ。
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