▼波の音だけが聴こえていた
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俺はヒロインの名前と海に来ていた。鬼舞辻無惨を殺し、この世から鬼が居なくなったことによって鬼殺隊は解散し、御役御免となった俺とヒロインの名前は、平和になり自由になった時間を全て一緒に過ごしていた。

だが、それでも時間は限られている。恐らく俺は二十五を迎える前に死ぬ。それをヒロインの名前も分かっている。だからこそ俺たちは傍に居られる時間を何よりも大切にしていた。


「本当に良いの?」

「何がだよ」

「ずっと私と一緒に居ること」


心配そうな顔をしながら隣に座っているヒロインの名前の頭をコツンと叩いた。今更すぎるだろ。こんなに愛し合っててまだ不安になるとは、俺の頭の中をこいつに見せてやりたい。

鬼舞辻を殺した後から、俺の頭の中にはヒロインの名前のことしかないというのに。


「そもそも俺から言ったことだろ、お前と死ぬ時まで一緒に居たいって」


そう言いながら俺はヒロインの名前の手を握った。すると愛しそうに俺の手を引き寄せて自分の頬を擦り寄せる。


「でも、私が実弥のこと独り占めしていいのかなって思うんだもん」

「俺はお前のこと誰にも渡したくねぇよ」


ヒロインの名前の頬に触れている方とは逆の手で彼女の体を抱き寄せて軽く口付けた。唇を離すとヒロインの名前は顔を真っ赤にしている。

何度もしてるのに、その度に生娘のような反応をするヒロインの名前に愛しさが込み上げてくる。俺は何回でも惚れ直してしまうみたいだ。


「…苦しいかもしれねぇけど、いいか?」

「うん、実弥の傍にいられるなら私は何処へでも行くから」


握る手は震えてすらなくて恐怖も何も無く、あるのは俺への信頼と愛情だけのようだ。俺も同じようなもんだけどな。

苦しくないか?と聞きながら、俺に抱きつくヒロインの名前の体と自分の体を縄で括りつける。


「もっとキツくてもいいよ、離れたくない」


固く、固く、俺とヒロインの名前の体は縄で括られ、もう離れることはないだろう。静かな空間に波の音だけが響いている。

昨日のうちにヒロインの名前とはたくさんのことを語り合った。出会った時のこと、共に鬼と戦った時のこと、そして二人で旅をしながらたくさんの景色を共有してきたことを。


「もう、悔いはねぇなあ」

「私も悔いなんてない。こうして実弥と一緒に死ねるのが嬉しいし、幸せだよ」

「俺も幸せだ」


これは最後の別れじゃない。死ぬ時まで傍にいるのだから。地面を蹴り、ヒロインの名前と共に崖から海へと身を投げた。

そして冷たい海の中で俺とヒロインの名前はお互いの温もりを感じながら最期の時を迎えた。


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