▼嘘吐きには口付けを
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「私、伊之助のこと嫌いだから!」


そう言うと、目の前にいる男−嘴平伊之助−はキョトンとした顔をしている。彼は大きなため息を付きながら頭をガシガシとかいて、ゆっくりと手を伸ばしてきたかと思えば私の額に向かって指を弾いた。


「いっ、たぁ!!!!」

「お前ってホント可愛くねぇのな!」


バチンと音を立てたわりに痛みはそれほどでもなかったけれど、それでもジンジンと痛む額を抑えながら私は彼を睨む。


「…ヒロインの名前、そんな顔してそんなこと言っても意味ねぇぞ?」

「そんな顔ってどんな顔よ!」

「俺様のことが愛しくてたまんねぇって顔」


距離を詰められたため後ずさるが、それを壁が邪魔してきた。背中には壁があり目の前には伊之助がいる。そして伊之助は両腕を壁について私を囲っている。逃げ場がない。


「なんですぐバレる嘘つくわけ?」

「だって…だって!伊之助に近付かれると心臓が痛いんだもん!」


体の細胞一つ一つが脈打っているのではないかと思うくらいに心臓の音がうるさい。伊之助の声を聞く度に、触れられる度に、おかしくなるんじゃないかと思うくらい体が熱くなる。

返答がないうえ、伊之助が黙ってしまったため、私はそっと顔を上げて様子を伺った。すると彼の顔が真っ赤になっていて、やんわりと口角が上がっている。


「いの、す…けっ?!」


その表情に驚いていたら、伊之助が私のことを引っ張りながら座り込んだ。がっちりとホールドされた状態で動けない。触れているところから、私の心臓の音が伝わってしまうのではないかと思い必死で離れようとするがそれも叶わなかった。


「心臓はえーな、お前」


そう言って笑いながら私の頭をワシャワシャと撫で回す伊之助に、私は身動きが制限されていながらもポカポカと殴った。


「無理!本当に無理!心臓持たない!」

「俺もヒロインの名前といると心臓がうるさい」

「なら離してよ!触らないで!伊之助なんてき」


そう言うと伊之助は私のうなじに手を回し口付けた。そしてあまりの出来事にポカンとしていると、ニタニタと笑いながら見つめてくる。


「うるさいからもう黙ってろって」

「…っ!!」

「本当は俺様のこと愛してんだろ?」


伊之助のせいでどんどん私の寿命が縮んでいる気がするけれど、自信満々に聞かれたら頷くことしか出来なくて、満足気な顔をする伊之助の首に私はそっと腕を回した。


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