▼その唇はまるで飴玉
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「お前はいつも飴を舐めているな」
「んー」
「それはそんなにも美味いのか?」
「んー」
何を言おうと上の空で気の抜けた返事をするヒロインの名前に、私は少し苛立ちを覚えた。人間の小娘の首を捻ることなど容易で、私の気分次第でヒロインの名前の生死は左右されるにも関わらず、この娘は平然としている。
私に殺されないという自信があるのか、それとも生き死になど興味がないのか。
「お前が飴以外を食している姿をあまり見ないが、今日の昼餉は取ったのか?」
「んーんー」
ヒロインの名前は肯定なのか否定なのか分からない生返事を返したが、聞かずとも答えは明白だった。なぜこいつは食事をしないのか。人間ならば誰しも生きるために空腹を満たそうとするが、こいつには生きようとする気待ちがないのかもしれない。
だが折角面白いモノを手に入れたんだ、倒れてしまっては困る。
「街に行くぞ」
「…珍しいですね」
「お前が食事を取らないのでな。街に行けば何か食べたい物が見つかるだろう」
「なんだか母親みたいですね」
いつもは私が言ったことに対して返事をするだけだったので、こうして会話が成立するのは数日ぶりだ。だが母親みたいだという言葉は解せない。私のヒロインの名前への気持ちは親愛とは似ても似つかない。
私はヒロインの名前の腕を引き寄せ唇を奪う。そして隙間から舌を入れれば口内は飴のせいで甘い。息が上手く出来ないのか荒い呼吸になり、苦しそうな顔をするため唇を離した。
「母親とはこんなことをするまい」
「当たり前です…こんなこと…」
「貴様は私の娘ではなく所有物だということを忘れるな」
そう言うと彼女は頬を紅潮させながら、ヒロインの名前は私の手をそっと掴んだ。そしてその手を自分の頬に添わせて私を見つめる。
「所有物だと言うのなら、これからも私のことを離さないでください」
「…お前は本当に面白い女だ」
再びヒロインの名前のまるで飴玉のように甘い唇に口付けをし、その甘美な味わいに酔いしれていた。この甘さも悪くない。
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