▼幸せに溺れそう
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「えっ!?ヒロインの名前ちゃん、冨岡さんと出来てんじゃないの!?」


善逸が驚きながら私に迫り寄ってきた。驚かれるのは何回目だろう。任務が一緒になる同期や先輩方に、柱である冨岡さんと親しそうに話しているのを見られる度に恋仲なのかと聞かれ、否定をすると毎回驚かれるのだ。


「昔近所に住んでたから仲良くしてもらってるだけだよ」

「でもあの冨岡さんが普通に喋ってるからそういう仲なのかと思った」


確かにあの人は口下手で色々と考えているくせに言葉にしないから勘違いされやすいけれど、本当は優しくて仲間想いである。

だから元々顔見知りで、幼い頃には彼と彼の姉と一緒に遊んでいたこともあったので、鬼殺隊に入り数年ぶりに会ったというのに彼は気にかけて話をしてくれるのだ。

それだけで恋仲だと疑われてしまうのは正直困るというか、彼に想い人がいたらそんな噂が流れてしまうと迷惑がかかってしまうのではないかと心配になる。


「あの人と恋仲だと騒がれたくないの」


だから最近はあまり近付かないようにしているのだが、彼は避けても避けても追い付いて普通に話をしてくるのが悩みだと言うと、善逸はうーんと唸りながら言った。


「あの冨岡さんに好かれてるのが悩みだなんてなぁ…だってあの人静かだし美形だから密かにモテてるらしいぜ」

「へぇー、人気なんだ」


そう言った直後に善逸の言葉に違和感を覚え、聞き間違いかと思い善逸に問う。


「好かれてるって、誰が?」

「えぇっ!!もしかしてヒロインの名前ちゃん…気付いてないの!?」

「何に?」


善逸はまるで憐れむような顔をして溜め息をついてから、私の肩をぐいっと抱いてこそこそと耳打ちしてきた。


「どう考えても冨岡さんはヒロインの名前ちゃんに惚れてるでしょ!」

「なっ!」


そんなわけないでしょ!と言おうとした瞬間、もの凄い力で後ろへ引っ張られた。何が起こったのか分からず唖然としていると、目の前の善逸が焦りながら怯えている。


「ヒロインの名前、少し話があるからこっちに来てもらえるか?」

「冨岡さん!?ちょっと、待って!」

「い、いってらっしゃ〜い」


善逸は止めてくれないし、冨岡さんは私の返答を待たずに私の手を握りズカズカと歩いていく。触れられた手に少しドキドキしていると、だいぶ進んだ先で突然くるりと冨岡さんが振り返った。

彼は何も言わず私のことをじっと見ている。こういう時の冨岡さんはどう話を切り出そうか迷っている可能性が高い。


「…善逸と話していた最中だったのですが、大事な話なのですか?」


冨岡さんが話しやすいよう私から口を開くと、彼は視線を下に向け俯いた。その表情はどこか悲しげで私は少し焦る。


「お前は、我妻善逸が好きなのか?」

「……え?」


なんでそうなるの?と聞こうとしたら、握られていた手を更にぎゅっと握られた。そして再びその青い瞳でじっと見つめてくる。


「名前…」

「え?」

「我妻善逸のことは善逸と呼ぶのに俺のことは名前で呼ばなくなった」


自分のことを名前で呼ばなくなって善逸は名前で呼ぶから好きなんだろって、どういう思考回路なのよそれ!


「ヒロインの名前。子供の時の約束は、お前の中ではもう無効なのか?」

「約束って…」


確かに子供の頃、冨岡さんと成人をしたら結婚をしようと約束を交わしていた。それはただの口約束でその約束が叶うことも、ましてや今でもそれを冨岡さんが覚えているなんて考えもしなかった。


「無効、じゃない…私は義勇のことずっと好きだったよ。今もずっと」

「そうか、俺もだ」


義勇はとても嬉しそうに微笑んで私に口付けた。体が熱く火照るのが分かる。幸せな気持ちに包まれて溶けてしまいそうだった。


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