▼寒い日には四人で
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ポケットに手を入れ、寒風に耐えながら伊之助の家に向かう。暖房が効いているであろう部屋に入りたくて無意識に早歩きになっていた。伊之助の家に行くとスウェットのズボンを借りるため気にせずスカートを穿いてきたが、この時期にスカートを穿くだなんて馬鹿だった。
「伊之助〜、来たよ!」
「お前、鼻が真っ赤だぞ」
「引くほど寒いのよ」
チャイムを鳴らすと伊之助が出迎えてくれたが開口一番にそんなことを言われ、私は伊之助の横をするりと通り中に入った。変な顔だと目の前で笑う彼をコートを脱ぎながら睨みつける。そこまで笑わなくてもいいじゃない。
ムカついて私は自分の冷たい手を伊之助の首に当てた。すると想像通り、あまりの冷たさに伊之助は変な声を出して驚いた。ケラケラと笑っていると思いっきりソファに投げられ上に跨られた。
「重いからどいてよ」
「ヒロインの名前、俺の手触ってみろ!」
「なによもう…」
言われるがままに、伸ばされた彼の手に触れる。暖かい。すっごく暖かい。触った手を離したくないくらいに暖かい。
「手冷えすぎだろ」
「伊之助の手カイロみたい〜」
そう言うと彼は私の太ももに触れた。びっくりして伊之助の顔を見ると、彼はニヤニヤと悪い顔をしている。
「なにすのよ!」
「暖めてやろうと思ってな」
「いや、結構です。勘弁してください」
「ヒロインの名前が先に煽ってきたんだろ」
煽ってない。断じて煽ってない。アンタが勝手に盛ってるだけで、私はただ鼻が赤いのを笑ってきたから仕返ししただけ。
どうにか離れようと心みるが、自分よりも力が強い相手に敵うはずもなかった。
「やめてってば!炭治郎と善逸だってもうすぐ着くし、変に思われるじゃない!」
「スカートで来るお前が悪い」
「この変態スケベ!」
伊之助は私の太ももを撫でながらペろりと舌なめずりをした。本気でヤバいかもしれない。そう思った瞬間、ガチャリと扉が開く音が聞こえた。
「あーーー、外寒すぎ…って、おまっ!!おい伊之助!!お前なにやってんの?!」
「邪魔すんな紋逸」
「善逸だっつってんだろ!!!」
善逸が高速で走ってきて伊之助を私の上から退けてくれた。二人が来なかったら伊之助に噛みつかれていた気さえして、私はホッと胸を撫で下ろした。
「お前そろそろセクハラで通報するぞ!」
「上等だ!やってみやがれ!」
いつもなら二人の喧嘩を止める炭治郎だが、今日はなんだか雰囲気が違っていた。私の傍にスタスタと寄ってきた炭治郎はニコニコと笑っている。
「ヒロインの名前、伊之助が襲っていたように見えたけど合意だったのかな?」
「いや、合意ではない…けど…」
「そうか。嫌がるヒロインの名前を伊之助は無理やり襲おうとしたんだな?」
そう言って炭治郎は分かりやすくブチ切れていた。携帯電話を取り出してどこかに電話しようとする炭治郎を止める。目が本気だ。
「女の子を襲うなんて最低だぞ伊之助!」
「そうだぞ!お前なんて刑務所に入れ!」
「炭治郎!善逸!落ち着いて!ね?」
「どうしたんだよ!俺のこと通報すんじゃなかったのかよ!」
「アンタもこれ以上煽るな!」
私の必死な制止により炭治郎携帯電話をしまってくれた。そして通報される二秒前だった男はケラケラと笑っている。腹立つから一度通報されたほうがいいのかもしれないと炭治郎たちを止めたことを少し後悔した。
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