▼理性なんて捨ててしまえたら
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「天元さんのバカァァァァ!!!」


そう目の前で喚き散らかしているヒロインの名前に呆れて、俺は深く溜め息を付いた。すると俺の手をガシッと掴み、ヒロインの名前はうるうると瞳を潤ませながら懇願してくる。


「こんなこと話せるの小芭内さんしかいないの…見捨てないで…」

「見捨てやしないが、何十回と聞いているからな。そろそろ耳にタコができる」

「だってあの人、私のこと好きって言うくせに須磨さんとばかり甘味を食べに行くし、料理は雛鶴さんに教わるといいとか言うし、しかも私のことまきをって呼んだの!私はまきをさんじゃない!」


ぽろぽろと泣きながら宇髄の愚痴を言うヒロインの名前の頭を撫でるのはこれで何度目になるのだろうか。宇髄との話をし始めると歯止めが聞かなくなるのか毎回この調子だ。

そのうえ、なら宇髄と別れればいいだろうと言えば、でも天元さんのこと好きだからと言うのでこちらが何を言おうと無駄なのだ。だが毎度毎度こう泣くくらいなら他の奴でもいいのではないのか。


「小芭内さん、ごめんね…いつも甘やかしてくれるから甘えちゃうのかもしれない」

「宇髄以外にも目を向けたらどうだ」

「確かに一夫多妻じゃなく私だけを愛してくれて、私だけをめいっぱい甘やかしてくれる人の方が良いのは分かってるの。分かってるんだけど、天元さんの傍にいたくて」


振り向かないと分かっていてもお前だけを愛していて、他の男の愚痴を聞いて慰めるほどお前だけをめいっぱい甘やかしてくれる男が目の前にいるだろう。と言いたくもなるが、それを言ってはヒロインの名前が気にして俺から離れていくことが分かっていたので言えずにいた。

そもそも何故あんな筋肉の塊のようで派手派手しい見た目の奴がいいのか。今は酒が回っているためこの調子だが、普段のヒロインの名前は淑やかで百合の花のように美しい。そんなヒロインの名前と脳筋男は不釣り合いだと思うのだが。


「もう今日はヤケ酒よ!」

「これ以上呑んだらまた記憶がなくなるぞ」


いくら止めてもヒロインの名前は酒を呑み続け、そして案の定酔い潰れてしまい俺の肩にもたれかかっている。酒のせいで頬が真っ赤になり目が潤んでいる。知らぬとはいえ、自分のことを好いている相手の前でその顔をするとは警戒心のなさに毎回驚く。

そろそろ店を出て送るか、などと考えていると、ぽーっとしていたヒロインの名前が俺の手を握り自分の頬を擦り寄せた。


「小芭内さんの手、冷たくて気持ちぃ〜」

「お前は、人の気も知らずに…」

「天元さんじゃなくて小芭内さんが恋人なら良かったのになぁ〜」


その言葉に俺は一瞬理性が飛びかけた。危なくヒロインの名前に口付けて、この関係を終わらせるところだった。

その言葉に意味など無いこともわかっている。ヒロインの名前は宇髄に対して、嫁が3人も居るくせに気を持たせるようなことしないでほしかったとよく嘆いているが、俺からしてみればヒロインの名前も宇髄と同じだ。

何かと俺と宇髄を天秤にかけ、小芭内さんの方がと優劣を付けるくせに結局は宇髄のところに帰るのだからな。


「ヒロインの名前、酔いすぎだ。そろそろ帰るぞ」

「まだ小芭内さんと居たいです」


ヒロインの名前はいい加減俺の理性に感謝した方がいい。そんな顔でそんなことを言われ襲いもせず宇髄のところへ返すのだから。

帰りたくないと駄々をこねるヒロインの名前を抱きかかえ店を出る。夜深いため肌寒いのかヒロインの名前は俺の体にぴたりと寄り添う。


「ヒロインの名前、お前のことを愛している。だから宇髄のところへ返したくない」


そんな妄言を吐いて彼女が受け入れてくれる日がいつか来ればいいのにと願いながら、俺は今日もヒロインの名前を宇髄の元へ送るのだった。


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