「好きです」

そう告げれば、俺の一歩先を歩いていた豪炎寺さんはきょとりと瞳を瞬かせた後、
「ああ、俺も好きだぞ」

切れ長の黒目を細め、唇の端に笑みを浮かべて平然として返す。
そうじゃない、そうじゃないんです。何度目かになるこのやり取りの繰り返しに、いい加減俺はもどかしくなった。
かぶりを振って否定をすると、豪炎寺さんは動かす足を止めて困ったように此方を振り返り見る。

「虎丸、」
「そういう意味の好きじゃないって、何度も言ってるじゃないですか!なのに豪炎寺さんはいつもはぐらかして俺の意志を見て見ぬ振りして逃げてばかりだ!」

自分よりも幾分高いその肩を掴む。
感情が高まっている為か、力加減が上手く出来なかったらしい。肩に走る痛み故か豪炎寺さんは顔を歪めた。

それでも、彼は綺麗だ。誰からの攻撃もものともせず、揺らがない屈しない――まるで孤高の不死鳥。
それが、その現実が、俺を途方もなく絶望させる。決して手の届くことのない位置に彼は立っているのだと突き付けられたようで。

「好きです、すき、愛してるんです、豪炎寺さん…」
「とら、ま…」
「何で、なんで知らない振りなんかするんですか。俺が年下だからですか?俺の経験が浅いから?――もし俺が貴方と同じだったら、俺のことを見てくれましたか?」





(豪炎寺さん、)
(彼は、何も答えてはくれなかった)


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