「あれ、何食べてるの?」
「んん、飴ー」

森の奥深く、拓けた明るい場所でランチを摂った後、各々少しの休憩を摂っていた。
アイリスは「食後のデザートを取って来るわ!」と意気込み、茂みへと消えて行った。一方デントは使い終わった食器や鍋等を片付け、サトシは先程までピカチュウと戯れていたのだが。
デントが全てを終えて彼を見てみると、サトシはピカチュウと共にもぐもぐと口を動かしていたのである。

デントはエプロンで両手の水気を簡単に拭き取ると、
「飴?」
「ああ、旅に出る前にママから貰ってさ」

な、ピカチュウ。
そう上機嫌に答えるサトシに、彼の相棒も嬉しそうに一鳴きした。
デントはその様子に苦笑して、
「ピカチュウも飴を食べて…大丈夫なのかい?」

喉に詰まったりしないかなあ。
そう言えばサトシは「平気だって!」と笑う。

「チューイングキャンディーは牙にくっ付いたりするから駄目だけど、飴は固いし大丈夫なんだ」

それに噛み砕けるから、喉にだって詰まり難いしな!

「…試したことあるんだ?」

彼の口振りからいって、過去にチューイングキャンディーを食べさせたことがあるのだろう。

少しばかり冷ややかなデントの視線を受けて、サトシはぎくりと肩を震わせる。
ピカチュウも当時のことを思い出したのだろうか、「ぴぃか」と鳴いて苦い表情を浮かべた。
デントは、そのピカチュウの反応に対して今度こそクッと眉を跳ね上げる。

「駄目じゃないか、間違ったら本当に喉に詰まってたかもしれないんだよ?」
「ご、御免、御免!…でもやっぱり上手く食べられなかったみたいでさ、結局は吐き出しちゃったから…」

それに、あれ以来チューイングキャンディーは食べさせてないよ。

わたわたと弁解するサトシに、デントは腰に手を宛てて「全くもう、」と溜息する。
それから先刻まで吊り上げていた眉を下ろし、
「ポケモンはデリケートなんだから、気を付けてあげなきゃ駄目だよ?」
「ああ、気を付けるよ!」
「ふふ、そうしてね」

素直に頷くサトシに、デントは小さく笑みを零してくるりと踵を返す。
そろそろアイリスが帰って来る頃だろうから、出発する準備を今の内に調えておこうと思ったのだ。
だが、デントが次の行動へ移る前にサトシがその袖を引っ張って止めた。
勿論、デントはちょっと驚いたように相手を振り返る。

「サトシ?」
「デント、デント」
「うん、」

何かな、と言葉をかたどる唇は相手のそれに塞がれ、音になることはなかった。
そしてその口付けは触れるだけに止まらず、あっさりと彼の舌がデントの咥内へと割り込む。
ちゅう、と小さく音を立ててサトシが唇を離せば、デントの舌の上には一粒飴玉が残った。唐突のことにぽかんとするデントの眼前には、後ろめたさも何も感じられない綺麗な笑顔を浮かべたサトシが居る。

「はい、お裾分け!」
「――…、ぇ…!?」

今、自分が何をされたのか。
それを数秒置いてから漸く理解したデントの頬に一気に熱が集中した。口の中で飴玉が歯に当たり、カランと音を立てる。
甘ったるいこれは、いちご味だ。

「い、いきなり何するのさ!?」
「何、って……キス?」
「そういうことを訊いてるんじゃなくて!」

アイリスが戻って来てたらどうするんだ!
真っ赤になって憤慨するデントとは裏腹に、サトシは「大丈夫だって!」と笑い、特に悪びれた様子もない。

「で、でもピカチュウだって…!」
「ピカチュウなら、さっきアイリス達を探して茂みに入って行ったぜ!」

尚も言い募るデントが振り返ると、ほんの少し前まで其処に居た筈のピカチュウの姿が失せていた。

「……」
「な?」

サトシは、呆然とするデントを背後から抱き締めて、指先を彼のグリーンの蝶ネクタイに引っ掛ける。それにデントは観念したように小さく肩を竦め、
「…もう、」

まさか、これが目的だったんじゃないだろうね?
デントはそんな疑問を抱きつつ、適わないなあなんて苦笑い。
それをサトシがどう汲み取ったのかは判らなかったが、再三唇を塞がれたデントにはもうどうでも良いことだった。




[omk]

「それにしても、飴だったら普通にくれたら良いじゃないか」
「そんなの詰まらないだろ?それに、デントの可愛い顔も見たかったしな!」
「…言っておくけど、可愛いは褒め言葉じゃないからね」


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