キャプテンは、アツヤに似ている。
見た目ではない、雰囲気でもない(アツヤはもっと乱暴だもの)。
上手く言葉にすることが出来ないが、何処かしら彼に似通った部分があるのだ。

人一倍サッカーに対する想いが熱い所とか、チームをぐいぐい引っ張って行くリーダーシップ。アツヤはそれに加えて協調性が欠けていたけれど、キャプテンはそうではない。
でもふたり共、チームのことをよく考えて気遣っている(アツヤは口こそ悪かったけど、遠回しにチームメイトを心配していたな)。
それと底なしに明るくて、笑うとお日様みたいに此方の心を暖かくしてくれる所。考えれば考える程、アツヤとキャプテンは似ていると思う。

しかし同時に考えてしまうのは、僕がキャプテンを好きでいるのは、彼にアツヤの面影を重ねているからなのではないかということ。
知り合いに、それも好きな人に死んだ弟を重ねて見ているだなんて、失礼な話だ。
アツヤはアツヤであって、キャプテンはキャプテンなのに。





「――吹雪、」
「っ、…なあに、キャプテン?」

皆がウォーミングアップに走り込みをしている中、キャプテンは木陰で休んでいた僕の元へ駆けて来た。
チームメイトの練習風景を眺めながらぼんやり考え事をしていたものだから、少し驚いた。キャプテンはと言うと、少しだけ眉を下げて、
「どうしたんだよ、気分でも悪いのか?」
「え?ああ…うん、ちょっとね」

曖昧に返事をすれば、彼は「そっか」と言って益々難しい表情を浮かべてしまう。
嗚呼、そんな顔をさせたい訳じゃないのに。
かといって「君のことで悩んでいたんだよ」なんて言える筈もなく、僕は咄嗟に嘘を頭の中で構築した。

「ああ、違うのキャプテン。ただ、その、立ち眩みがしただけで…少し休んでいれば平気だから」

心配しないで、とにっこり微笑んで見せる。自分でも完璧な笑みだったと思う。
大抵の人はこれで「そう?それなら良いけど、無理はしないでね」といった言葉を掛けて立ち去って行くものだ。

キャプテンだってそうだろうと、僕は踏んでいたのだ。

しかし僕の予想とは裏腹に、彼は僕のその言葉を聞いた途端その眉をクッと跳ね上げ、「違うだろ」と不機嫌そうに吐き出した。
キャプテン?と僕が問い掛けるその前に、彼は此方に詰め寄っていた。
睫毛が触れ合うんじゃないかと思われるくらいの至近距離に、かっと頬が熱を帯びる。

その上、真っ直ぐ此方を射抜く視線は真剣そのものであって、僕は直視出来なかった。苦し紛れに似合いもしない彼の眉間の皺を見つめ、僕は困り果ててしまう。

「あの、キャプテ、」
「吹雪、」
「…はい、」

低く名前を呼ばれ、僕は上げ掛けていた視線を再び自分の膝小僧へと戻した。
こんな風にキャプテンが名前を呼ぶのは、大抵憤っている時だ。

僕、何かしたかなあ。と思考を巡らせる僕にストップを掛けたのもまたキャプテンである。
言葉もそうだが、先ずはその両手で頬を挟まれ、半ば強引に彼と視線を合わせるように仕向けられた。

今の僕にとっては、強過ぎる光を放つ黒曜石の瞳が間近にある。
それから目を逸らしたくても、それはキャプテンが許してくれないらしい。その瞳は逃げるな、と暗に物語っているように思われる。

『逃げんなよ!』

昔も、誰かが同じようにして逃げようとする僕を引き留めたっけ。

「……」
「吹雪はさ、」

優しい記憶に浸る僕の鼓膜に、キャプテンの声が染み渡る。それは先程とは違って優しく、穏やかなものだった。

「そうやって皆に心配を掛けないように、って嘘をつく。皆がつけ込む隙も与えないくらい、上手く嘘をつく。…それに慣れちゃったからかな?」

その嘘が、

「誰にだって通用する、って思ってるだろ?」
「キャプテ、」
「言っとくけど、俺は騙されないからな。嘘をついてるのかどうか判らない程、伊達に吹雪のこと見てないぞ」

辛かったり苦しかったりするなら、俺のことを頼れば良い!
キャプテンは明るく笑って、そんなことを言う。それから、彼は立ち上がると僕から少し離れた位置で両手を広げ、
「悩みも何もかも、全部纏めて受け止めてやるから、」


だから来いよ!と誘う彼の腕を、僕は拒むことが出来なかった。


// top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -