ずっと隣で




状況を飲み込めない私が地面に座り込み、彼の顔を覗きこめばその口から赤が吐き出された。
視線を横へと流せば、とめどなく溢れる液体。
何がおきてるか分からなかった。彼から流れ、たまりを作っているそれを見つめ、私は只呆然と思考を巡らせた。
そんな中、私の手に暖かな感触がして、我に返る。
私の手に重なっていたのは、血に濡れた彼の手。
それによって理解した、
平助と私の、今の状況。
「平助..?」
恐る恐る名を紡げば、ゆっくりと微笑んで、苦しそうに、それでも無理に明るく振る舞う。
「俺ってさ、幸せもんだよな..
こう、やって、お前のために、死ねるんだからさ..っ」
肩で息をし、咳をおさえながらも尚、私を安心させようとする平助に、私の目からは滴がこぼれ落ちた。
前にも同じような事を言った。
今とは違う表情で、心の底から嬉しそうに笑って。
「なまえ?」
かすれた声で私を呼ぶ平助。
「何…?」
溢れる涙を拭わず、返事をする。
平助はまた、無理に笑ってからゆっくりと口を開いた。
「今まで、ずっと隣りで歩いてきたけど..」
す、と私の頬を手がすべる。
「俺は、ほんの少し先に、進むから」
流れる涙を、緩く拭われる。
「お前は、のんびり歩いて、来いよ」
頬で平助の血と、涙が混じりあう。
もうしゃべらないでほしい、でも、消えていく現実を認めたくもない。
「..そんで、いつかお前が、俺に追い付いたなら、
また、隣りで一緒に、歩かせてくれよな..」
真っ直ぐ私を見る平助の瞳。
その瞳は霧がかったようにうつろだった。
「当たり前でしょ、私、以外なんて..許さないんだから..!」
一瞬目を見開いた後、歯を見せて笑った平助の笑顔は、本物だった。
最後に心に深く刻まれる事になったそれは、平助が力なくうなだれると同時に、消えた。
平助と私の回りに響くのは、行く術のないむなしい泣き声だけだった。






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