★飢えと寂しに甘い薬を(同人誌再録)



夏侯惇が曹操に依頼された仕事によって執務室での生活を余儀無くされた。
いくら信頼あるからとはいえ、将である自分が戦場に出る事は出来ず、机に置いてあり竹簡と日々、にらめっこしなければならなかった。
郭嘉が常に夏侯惇を補佐をしてくれてはいるが仕事はなかなか進まない。
夏侯惇と郭嘉が一緒に執務室にいる事は誰もが気には止めないだろう。
軍師と将が一緒に仕事していると思われるだけ。
但し、一人を除いて思わない男がいる。
夏侯惇の従弟の夏侯淵であった。
曹操の命令で夏侯淵は戦場に出たり、夏侯惇の代わりを務めていた。
大軍を指揮をして戦に勝利しても嬉しくは思わなかった。
夏侯淵は夏侯惇と一緒に戦場を駆けれないのに不満があった。
本来なら夏侯惇が戦場に立つ筈だった。
城に凱旋し曹操に戦の勝利した事等を報告しても夏侯惇と会える機会は無かった。
「夏侯淵よ、夏侯惇は別件での仕事が終わらぬ限り会えぬぞ…」
「殿…惇兄とはずっとあってないから久しぶりに会いたいんだけど、駄目ですか?」
夏侯淵は曹操に夏侯惇に会えてない事を告げる。
「ふむ…お主は戦に出兵して夏侯惇の代わりを無事に勤めたようだ…だがな、夏侯惇に与えた仕事は彼以外出来ぬ物だ。すまぬが彼がやり終えるまでは我慢してくれ」
「そうですか…」
「夏侯淵、今回の戦での報告書を提出したら暫くは執務は休みを与える。ゆっくりと休むといい…」
「かしこまりました…それでは俺は失礼します…」
夏侯淵は曹操に一礼すると部屋から出て行った。
「宜しいんですか曹操殿…?」
夏侯淵の気配が遠のいていたら、曹操の側にいた賈クが話掛けた。
「これは夏侯惇が望んだ事よ、儂がどうこうと言った所で状況は変わらぬからのう…」
「さいですか…しかし、夏侯淵殿が哀れで仕方ない。従兄弟なのに側に居ながら会えぬとは」
賈クは溜め息をついた。
救済策が無い訳ではないが夏侯淵殿が承知する訳ではないだろう。
「殿…悪知恵を彼に与えては駄目ですかね?」
悪知恵という言葉に曹操は耳を傾ける。
「…ほう、何かあるのか?」
賈クは曹操の耳元で囁くとその提案に口元を歪め笑う。
「賈ク…本気で夏侯淵にそれをさせる気か?」
「夏侯惇将軍も夏侯淵将軍に会いたい筈、それにあちらも溜まってると思われる。解消するなら手っ取り早いですし…」
賈クの提案に曹操は承諾した。
曹操は賈クを抱き寄せる。
「上手く事を成せ、お主も郭嘉に会える…」
「曹操殿、貴方は酷い方だ。俺の気持ちを知りながら利用するむかつく…」
「く、そう言うな。賈ク、お前も満更ではあるまい。郭嘉に抱かれたくてその身体は疼いておるのであろう…」
曹操は賈クの身体をなぞる。
すると賈クの身体がビクビクと震えた。
「儂が抱いてやっても良いが郭嘉の怒りを買うからのう…」
「お預けとは酷い。此処まで煽って置いて放置とは…」
「ならば策を遂行し成功させよ…そうすればあの二人もお前や郭嘉も欲を解消出来るだろう」
曹操は賈クを更に煽るように尻を撫でていく。
「…はあ、あっ、了解した」
「相変わらず感度が良いな…これも郭嘉の調教のお陰かのう」
「知りませんね…そんな事は…」
賈クは曹操から離れる。
「とりあえずは俺は殿が期待通りに策を成功させていただきますよ…」
賈クは一礼すると執務室から出て行った。
さて賈クは自分以外に協力してくれる人物を探す事にした。
夏侯淵に親しみがある者。
この策に協力してもらえそうな人物は一人いた。
彼が協力するかは別だが。
夏侯淵の部下である張コウ。
彼に話を持ちかければ何かしら反応は有るはず。
吉とでるか凶とでるかは運次第だ。
賈クは張コウの執務室へと向かった。
まだ彼は執務中の筈。
長い廊下を歩き、張コウの執務室へとたどり着いた。
賈クは扉を軽く叩いた。
暫くすると扉はゆっくりと開かれた。
「はい…誰ですか?」
「執務中に邪魔して悪いが話があるんだが…?」
「おや、誰かと思えばか賈ク殿でしたか。私に何か用でもおありですか?」
「ああ、ちょっと夏侯淵将軍の事で話がある」
「将軍に何かありましたか?」
「最近、夏侯惇将軍が執務室に籠もりっきりで、夏侯淵将軍はずっと夏侯惇将軍に会えていない。将軍は夏侯惇将軍に会いたいらしいが殿からは夏侯惇将軍の仕事が終わる
までは会う事は出来ないらしい…」
賈クは張コウに説明する。
それを聞いた張コウは呟いた。
「ああ、嘆かわしい…、将軍が悩んでいるとは。賈[ク殿、この張儁乂に是非協力させて下さい」
張コウは賈クに協力に賛同する返事を言う。
「ははっ、それは助かる是非お願いしたい」
「それでは賈ク殿、私は何をすれば宜しいのですか?」
張コウは賈クに問い掛ける。
「夏侯淵将軍を美しく着飾ってくれるかい。夏侯淵将軍に肌を露出した衣装を着せて夏侯惇将軍を色気で落とす。安易な策だが、何分あの二人はこの数ヶ月会ってはいないし、あちらの方もご無沙汰であろうから、夏侯淵将軍に誘い受けしてもらおうかと思う…」
「なら、将軍に女装とまではいかないですが身体の線がくっきりでるものを私が見繕いしましょう」
張コウは嬉しそうに呟く。
「おお、やってくれるのかい。なら衣装はあんたに任せたよ…」
「おまかせ下さい。張儁乂は将軍を艶やかに着飾って差し上げます故に…」
張コウは嬉しそうに呟く。
賈クは張コウが協力してくれる事に安心したかのように安堵感を感じた。
「じゃあ、頼んだ」
「はい、衣装が決まったらお知らせします…」
「了解」
賈クは張コウの執務室から出て行った。
さて、色仕掛けするにも材料が足りない。
夏侯淵将軍は信頼高い武将で慕う者は多い。
だが、将軍には色気が足りないのは確かだ。
体毛を剃るのは些か可哀想なのでこれは薬に頼るしかあるまい。
協力な媚薬を入手して彼等に盛るか。
兎に角、曹操に与えられた任務だから手は抜く事はない。
賈クは城下町へと脚を進めた。
自分の知識と経験が役に立つ日が来るとは人生は本当に面白い。
賈クは華街へと向かう。
城下町でも此処は女が男に身売りする場所。
この戦乱の世の中で生活するために、女が生きる為に身売りする道を選ぶのは
よくある事であった。
賈クが華街に立ち寄った目的は一つ。
協力な媚薬を入手する為であった。
華屋敷の中でも一際目立つ外装で一番の店へと賈クは入っていく。
店の中で薬を扱う者に会う為に番頭に声を掛けた。
「ちょっとあんたに教えて欲しい事があるんだが…」
「いらっしゃい、何かご所望か?女朗は選り取り見取りだ。あんたが好む娘を呼ぶぜ…」
番頭は気楽に賈クに話掛けてくる。
「実は女ではなく薬が欲しいのだよ。強力な媚薬は置いてないか?」
賈クはこの店に立ち寄った目的を番頭に伝えた。
「薬なら置いてある。とりあえず薬師の爺さんがいるから案内するよ」
「すまない、案内を頼む」
番頭は薬師がいる部屋へと案内する華屋敷から続いた通路から見える離れの小屋が見えた。
番頭は扉の前に立つと声を掛ける。
「爺さん、あんたにお客様が来ている。薬を分けて欲しいんだよと」
番頭の声に反応したのか小屋の中から初老の男性が出てきた。
「…儂に用があるとな。では小屋にはいりなされ…」
「ああ…」
賈クは老人の後に続いて小屋へと入っていく。
小屋の中は薬の匂いが微かにし、薬草が所狭しと置かれていた。
「して要件は何ぞ?」
「実は強力な媚薬を分けて欲しい。どうしても必要でね…」
「ふむ…お主が使うのかのう?」
「いいや…俺ではないがその媚薬は女ではなく男でも効きますかね?」
「無論じゃよ…」
「なら、頂戴したい」
賈クは老人に頼み込んだ。
老人は暫し黙っていた。
「………」
賈クは老人からの返事を待った。
「…薬を分けてやっても良いが守って欲しい事がある」
「それは何だい爺さん?」
「薬を与える人間が女であろうと男であろうと効果はある。だが与える量を間違えれば、その者は理性の箍が外れた獣になり果てる…」
「それはどういう事だ?」
「薬が強すぎるが故に虎のような交尾をする羽目になると言う事じゃよ…」
「虎?」
「知っているか。虎は一度交尾を始めると2日間で百回は交尾を続けると。それと同じ効果をこの媚薬は齎す。薬の処方量を間違えればの話だがな。普通なら普段よりも精力が増すだけよ。与える量はほんの少量でよい」
薬師の老人の言葉に賈クは息を飲んだ。
「…ああ、気をつけよう」
「もし、誤って処方した時は薬の効果が切れるのを待つか、この解薬を飲ませる事じゃ。そうでもしないと処方された者を戻す事は出来ぬ」
「了解した…」
賈クは老人から薬を受け取ると金を払いその場から立ち去った。
「この薬が諸刃の剣に成らなければよいが…、試してみる価値は在りそうだな」
これからの策に使えるかは別として普段より本性を晒している姿を見られるかもしれないと言う事。
もしこの薬が自分に使われるような考えは持ちたくはないが用心はしておこう。
彼等にバレたら命はないかも知れない。
賈クは思考を止め、屋敷へと戻って行った。


それから数日後─────。
張コウから連絡が入った。
夏侯淵に着せる衣装を見繕ったとの連絡に賈クは張コウの執務室に出向いた。
「張コウ殿、衣装が見つかったと聞いたがどんなものだ?」
賈クが張コウの執務室に入って張コウに問い掛ける。
「待ってましたよ賈ク殿。こちらが将軍の為に見繕った衣装です」
張コウは机の上に置いてあった桐箱の蓋を開けた。
桐箱の中には白を基調した金色の刺繍が施されたチャイナドレスであった。
「張コウ殿、これまた見事な衣装だな。しかしこれは女物のようだが?」
賈コウは衣装を持ち見つめて呟いた。
「ふふ…、将軍の美しさに負けぬ鮮やかな衣装を見繕うのには苦労しましたよ。この純白の生地が将軍の肌を更に際立たせ、艶やかさを増すと思われます」
「なるほどねぇ…、しかし布がやけに薄いような気がするが?」
賈コウは衣装を触り気づいた事を呟いた。
「実は密かにある加工が施してあるのですよ」
張コウはクスっと笑い呟く。
「どんな加工だい?」
「それは秘密ですよ。今ネタばらししてもつまらないでは有りませぬか…」
「まあ、よからぬ事だと思うがやり過ぎるなよ…」
賈クは溜め息をついた。
「その点に関しては大丈夫ですからご安心を…」
「本当かねえ…?」
「ええ…」
賈クの言葉に張コウは笑顔で答えた。
「とりあえず用意する品は揃った。これを夏侯淵将軍に届けよう…」
「そうですね…賈ク殿、宜しく頼みましたよ」
「了解した…張コウ殿、忙しいのに協力してくれてありがとうな」
「私も息抜きできましたからこちらこそ感謝いたします…」
賈クは桐箱を持ち、張コウの執務室から出て行った。
向かうのは夏侯淵の屋敷。
彼は先日の戦の功績で休みを与えられた。
屋敷でのんびりと過ごしている筈だ。
夏侯惇を会える機会を彼は逃さないだろう。
ただ、夏侯淵がこの衣装を着てくれるかだな。
説得するのも大変な気もする。
賈クは屋敷の扉に立つ門番に話掛け、屋敷の中に入っていく。
屋敷の中で暇を持て余していた夏侯淵にとっては賈クの訪問は嬉しいものであった。
「おお、よくきたな。今日はどんな用で来たんだ?」
夏侯淵は賈クにお茶を出して問い掛ける。
賈クは出されたお茶を一口飲むと目的を呟いた。
「実は、夏侯淵将軍に新たな衣装を見繕いました。先日の戦での功績を讃えまして、張コウ殿が夏侯淵将軍に似合う物をと用意したものです」
賈クは机の上に桐箱を置いた。
「ふーん、どんな物だ?」
夏侯淵は桐箱を開けて中身を確認する。
衣装を見て夏侯淵は目を見開き驚いた。
「おい、これは女物じゃないのか?」
「いや、これは将軍に用意したものですが…お気に召さなかったかい?」
「俺にこんな上等な衣装をもらっていいのかよ?」
夏侯淵は目の前にある衣装を持ちながら呟く。
戸惑いの色を隠せない様子で賈クを見る。
「せっかく張コウ殿が用意した衣装だ。貰っても損はあるまい…、それにこの衣装を着て夏侯惇将軍に会いに行けばいいのでは?」
「なんでそこで惇兄の名前が出てくるんだよ?」
「殿から話は伺ってます。夏侯惇将軍に会っていないと…でしたらこの機会に夏侯淵将軍は夏侯惇将軍に会ってもらおうかと思った次第だ」
賈クはさらりと呟く。
「いいのかよ…殿からは会えないと言われてたし。無理じゃねえか?」
「それに関しては俺から話ておきますよ…この衣装を着て、差し入れを持っていくのは止められてはないだろ?」
「…確かにそうだ。会えないと思っていたからその考えは無かったな」
「夏侯惇将軍にも息抜きは必要ですから。夏侯淵将軍、点心やお茶を用意してもらい夏侯惇将軍の元に行ってくればいい…」
賈クの言葉に夏侯淵は頷いた。
「ただし、先程も申したようにこの衣装を着てから夏侯惇将軍の元に行ってもらいますよ…」
「やっぱり着ないと駄目か?」
「ええ、そうしてもらった方が助かるよ…」
夏侯淵は賈クの言葉に従うしか夏侯惇に会える機会は無さそうだ。
「わかった…従うよ。これを着れば良いんだな?」
「そういう事だ、さあ試しに着てみてくれないか将軍…」
賈クは夏侯淵に衣装を着るように催促する。
夏侯淵は仕方なさそうに肩を落とし衣装を持って部屋の奥へと移動した。
暫く待つと部屋の奥から衣装を着た夏侯淵が現れる。
「…なあ、この衣装何だかなんか短くないか?それに縦に長い切れ目だと下穿きが見えちまうぜ」
夏侯淵は恥ずかしさを押し殺し賈クに呟く。
「思っていた以上に衣装が似合ってらっしゃる、そそりますねえ…」
「賈ク、本気で言ってんのかよ?」
「ええ…」
賈クは笑顔を見せ応えた。
夏侯淵は身体にぴったりした衣装は窮屈に感じた。
「なあ、これ脱いじゃ駄目か?動きにくいし、足元がスースーする」
「せっかく着たのに脱ぐのは駄目ですよ。夏侯惇将軍にその姿を見せないとね」
「普通の格好じゃいけないのか?」
「そうしたら色気もないだろ。露出した意味がなくなる…とりあえず、強力な媚薬も用意いたしました。色仕掛けが駄目なら差し入れに媚薬含ませればいい」
賈クの言葉に夏侯淵は驚きを隠せない。
「用意周到も良いが何を企んでいやがる…?」
「いや、答えは簡単だ。俺も郭嘉に会いたいのだよ。ずっと夏侯惇将軍と二人っきりだし羨ましいんだ…」
「そう言えば、お前と郭嘉は出来てたんだな…」
夏侯淵はその事を思い出したかのように呟く。
「だからあんたが夏侯惇将軍と二人っきりになれば俺も郭嘉に会える、悩みも解消されて一石二鳥って処ですかな…」
「ふーん、やっぱりお前も寂しかったのか」
「将軍を利用するのは悪くないと思ったまで。俺も男だ。将軍を変わりに抱くのも良いと…」
「なっ…!」
賈クは夏侯淵の身体に触れる。
撫でるかのように身体に触れる賈クの掌。
太腿を下から上へとなぞる、それだけで夏侯淵は反応を示す。
「ふぁ…止め…っ」
「案外、感じやすいのだな。夏侯惇将軍が欲しがる訳だ…」
「いい加減に離れろ!ふざけるのも大概にしておけ!」
「おお、怖い怖い…。将軍、すみませんでした。それじゃあ早速行動に移して貰いますから」
賈クは思考を切り替えて呟く。
「計画に乗るにはいいが…上手くいくか?」
「将軍なら上手くやれますよ…」
手筈通りに媚薬入りの差し入れである点心とお茶を持って夏侯惇の執務室に行く。 
そして夏侯惇と二人っきりになる事。
だが郭嘉を引き離すには苦労するかもな。
軍師相手に頭脳戦は勝てる訳がないが上手く理由を付ければいい。
「賈ク…郭嘉を引き離したらお前が郭嘉の相手をしてくれるんだよな?」
「勿論だよ、上手く引き止められる自信はある、将軍の行動によってこの策が上手くいくかだ。頼んだよ…」
この絶好の機会を逃せばいつまでも夏侯惇に会う事もできない。
自分が従兄をまるで娼婦のように誘うなんて出来ない。
だがその気にさせればいいだけ。
それだけだ。
簡単な事だ、迷う事はない。
なのにいざとなると恥ずかしさで顔が真っ赤になっている。
夏侯淵の様子に賈クはクスっと笑う。
「将軍、もう少ししたら女官がこの部屋に点心とお茶を持ってくる頃です。頑張ってもらいたい」
「手際よいな、いつ頼んだよ…」
「此方の部屋にくる前です。これであんたは逃げられない…」
「わかったよ…こうなったらやるよ、やればよいんだろ!!」
二人が話てると扉が叩く音が数回した。
『夏侯淵将軍様、頼まれましたお食事をお持ちしました…』
扉の向こうから女官の声が響いた。
夏侯淵は仕方なく扉を開けた。
「ああ…頼んですまなかったな」
『いえ、また何かありましたら言って下さいませ』
「ああ…」
女官から食事を受け取ると夏侯淵は静かに扉を閉めた。
温かな湯気を立ちあがり、美味しそうな匂いが部屋を包む。
夏侯淵は円卓に食事の盆を置いた。
蒸籠を開けると包子が二つ入っていた。
「…これはまたうまそうだな」
「このお茶に薬を盛りましょう…ぐずぐずしてる時間はないのでね」
賈クが背後から夏侯淵に話掛けた。
夏侯淵は振り返り背後にいる賈クを見た。
賈クは蒸籠の側に置いてある茶器に満たされたお茶に薬を混ぜていく。
夏侯淵は黙ってその様子を見ていた。
白い粉がお茶に混じり溶けていく。
「さあ将軍…準備が出来ましたよ。そろそろ昼時だ。夏侯惇将軍に昼餉をお持ちくださいな…」
賈クは夏侯淵に最終勧告とも言える言葉を紡いだ。
夏侯淵は覚悟を決めて、蒸籠と茶器を入れた籠を持ち部屋を出て行った。
夏侯惇がいる執務室までの長い道を歩く。
その足取りは重い。
彼はまだ悩んでいたのだ。
賈クと張コウがくれた好機を無駄にはしたくはないだが、自分は上手く夏侯惇を誘う事が出来るのか。
悩んでいたが答えはでずにいた。
せっかく用意した料理が冷めぬうちに届けようと夏侯淵は思い、歩みを早めたのであった。



夏侯惇の執務室にたどり着いた夏侯淵は深呼吸を一つしてから扉を数回叩いた。
暫くすると扉が開き部屋からは郭嘉が出てきた。
「どちら様ですか?おや誰かと思いきや夏侯淵将軍ではないですか…」
「よう、郭嘉。実は惇兄に昼餉を持って来たんだ。最近、執務室から出ていないと聞いたもんでな…女官に頼んで美味しい包子を作ってもらった」
「さようですか、夏侯惇将軍も喜ばれますね。どうぞ中にお入り下さい」
「おっ、すまないな…」
夏侯淵は郭嘉に言われるままに部屋へと入って行く。
執務室の机には沢山の竹簡が山積みにされていた。
「惇兄…、昼餉を持ってきたから休憩しようや…」
「ああ…すまんな淵」
夏侯惇は走らせていた筆を止め、夏侯淵を見た。
「淵…その格好はどうしたんだ?」
「あっ、これは張コウが新しい衣装を用意してくれたんだ…」
「何…?」
「戦に勝った祝みたいなものだからな」
夏侯淵は夏侯惇の側に来ると机の上に蒸籠を置いた。
「今、お茶煎れるから包子食べてくれよ…」
「すまんな…」
夏侯惇はまじまじと夏侯淵を見つめる。
白のチャイナドレス姿は何処か色気を醸し出している。
スラリと伸びる生足に夏侯惇はゴクリと音を立て唾を飲み込んだ。
夏侯惇は蒸籠を開けて包子を一つ掴むと口に運んだ。
「惇兄、お茶が入ったぜ…」
「ああ…ありがとう」
夏侯惇は夏侯淵から茶器を受け取ると一気に飲み干す。
「思っていたよりは大きいな、郭嘉もいただけよ…俺はこれで充分だ」
「宜しいのですか?」
「ずっと一緒に仕事していたからお前も空腹だろう」
夏侯惇は郭嘉に包子を差し出す。
「ではお言葉に甘えましょう…」
郭嘉は夏侯惇から包子を受け取る。
「郭嘉の分のお茶煎れてやるよ、待ってな」
「はい」
夏侯淵は郭嘉の分の茶器に煎れていたお茶を注ぐ。
「待たせたな郭嘉…熱いから気をつけろよ」
「はい、ありがとうございます将軍…」
郭嘉はお茶を一口飲んだ。
「美味しいですよ将軍…」
「まあ、俺が作った訳じゃないが言われると悪い気はしないな…」
夏侯淵は照れながら呟く。
夏侯惇は黙ったまま包子をほうばり更に新たに注がれたお茶を飲み干す。
夏侯淵は夏侯惇をじっくりみていた。
久し振りに見た彼の姿と声を聞いただけで胸がドキドキしてきた。
ずっと側にいたいのにそれが出来ないのが辛い。
「淵…、お前顔が真っ赤だぞ?」
「えっ、そうかな…気のせいだよ」
夏侯淵ははぐらかすかのようにから笑いした。
夏侯惇は近くに寄り、夏侯淵の頬に触れる。
「ふむ、熱はないな…」
「大丈夫だよ惇兄、惇兄の勘違いだから」
「そうか…」
何ともないと言う夏侯淵に夏侯惇は仕方なく離れ椅子に座る。
「夏侯惇将軍…私は用事を思い出したので失礼する。夏侯淵将軍、昼餉ありがとうございました」
「ああ…」
「郭嘉…仕事はどうする?まだ残っているが?」
「残っている仕事は急ぐものではありません二、三日で終わるものですし、ちゃんと終わらせてくれればいいですよ。終わったら私の執務室に届けて下さい」
「わかった…」
夏侯惇は郭嘉の話を聞いて返事を返した。
郭嘉は夏侯淵を引き寄せ耳元で囁く。
『将軍、お茶に何か仕込みましたか?』
郭嘉の問いに夏侯淵は首を左右に振る
『そうですか…私の勘違いのようですね。失礼しました…』
郭嘉は夏侯淵にお辞儀して部屋を出て行った。
夏侯淵は内心焦っていた。
流石は郭嘉だな。
お茶に薬が仕込まれていたのに気づいていた。
思わず否定しちまったがあれは完全にバレている。
郭嘉は確実に薬を仕込んだ相手を見つけるだろうな。
賈クの思い通りの展開に夏侯淵は落ち着けない。
焦って仕方ない。
暫く考えていたがゆっくりと夏侯惇を見る。
彼はお茶を二杯飲んだ。
ならば薬は効いているはず。
「淵…こっちに来い」
夏侯惇は夏侯淵を呼んだ。
「何だよ惇兄…?」
夏侯淵は言われるままに夏侯惇の側に近寄った。
夏侯惇は夏侯淵を抱き寄せる。
「淵に触れるのは久し振りだな…」
「ああ…」
「その格好、意外と似合うな…張コウが用意したのが気に食わないが…」
夏侯惇は夏侯淵を抱きしめる腕に力が入る。
夏侯淵はドキドキしてしまう。
心臓の音が聞こえてしまうのではないか。
そう感じてしまう。
「…淵よ、俺が新しい服を用意してやるから脱げよ」
「えっ、似合わなかったか?」
「違う、似合うが張コウが用意したのが嫌なんだ。俺以外の男が用意したのを身につけているのが嫌なんだよ」
夏侯惇はあきらさまに独占欲と嫉妬を現していた。
「惇兄…」
夏侯淵は嬉しかった。
どんな些細な事でも自分を思ってくれていて嫉妬してくれるのが。
愛されていると感じてしまう。
夏侯惇は夏侯淵を突然、床に押し倒した。
「…惇兄?」
上から覗くように見る夏侯惇に夏侯淵は彼の名前を紡いだ。
「淵…お前が欲しい、抱きだいんだ」
「惇兄になら構わない。久し振りに惇兄を感じたい…」
「ああ、俺もだ。お前が欲しい…」
二人はゆっくりと唇を交わした。
久し振りに触れ合う体温に安心を感じた。
夏侯惇は夏侯淵の太股を何度も撫でていく。
「ひっ、やあ…!」
「久し振りに触れたのに感じやすいな」
夏侯惇は衣装の上から夏侯淵の身体に触れる。
「惇兄…、ふあ、あっ…」
夏侯淵は夏侯惇が身体に触れる度に反応を示しビクビクと身体を震わした。
「本当ならゆっくりと愛でてあげたいがまだ仕事が残っている…、このままするぞ」
「へっ…?」
夏侯惇は夏侯淵の下穿きを脱がしていく。
「なんだ淵…お前は女物を穿いてたのか?」
夏侯惇は脱がした下穿きを見て呟く。
「こ、これは張コウがこの衣装に合うものだからと用意してくれたから…」
「だから言われるままに穿いたのか?」
「…うん」
夏侯淵は素直に答えた。
可愛い事を言う。
だからこそ手放したくはないのだ彼を愛しているから。
「全く、お前は俺を楽しませ、そして性欲を煽らせおって…」
「えっ?」
「覚悟しておけよ淵…」
夏侯惇の言葉に夏侯淵は青ざめた。
夏侯惇は夏侯淵の衣装に触れ前垂れを掴むと夏侯淵の口に含ませた。
「んぐっ!?」
「衣装が汚したくなければ咥えてろ」
夏侯淵は夏侯惇の言う通りに前垂れの端を咥えた。
夏侯惇はいきなり夏侯淵の性器を掴むと扱き始めた。
「んんっ!!」
夏侯淵は性器を愛撫されてぐぐもった声を出す。
夏侯惇の手管によって夏侯淵はみるみるうちに絶頂を迎えてしまう。
「んむ、うっ、ん───────っ!!!」
夏侯淵は夏侯惇の目の前で射精してしまう。
「意外と早かったな。溜まってたのか?」
夏侯惇は耳元で囁く。
夏侯淵は唇から前垂れを離して荒々しい吐息をもらす。
「と、惇兄…」
「なんだ淵…、もう欲しいのか?」
夏侯惇はクスっと笑うと突然、夏侯淵をうつ伏せにする。
「…!?」
「慣らしてから入れようと思ったが俺の方が我慢出来ない」
夏侯淵の尻を掴むと夏侯惇はいつの間にか取り出した性器を夏侯淵の秘部に当てた。
「やめ、惇兄…」
「本当はこうして欲しかったんだろ…」
夏侯惇はいい終わると一気に腰を進めた。
「んぐっ、ぐあっ、あああ───っ!!」
夏侯惇の性器が深く挿入されて夏侯淵は痛みで悲鳴を上げた。
挿入された部分は裂ける事はなく夏侯惇の性器をギチギチと締め付け、内の肉壁が蠢いていた。
「相変わらずお前の中は気持ちよいな淵よ…」
「惇兄…痛い、抜いてくれ。頼むから」
「それは無理だな…」
夏侯惇は背後から呟くと律動を開始した。
ゆっくりと入口近くまで引き抜きそして奥へと突いていく。
「うあ、あがっ、ああ、やあっ!!」
荒々しい律動と責めに夏侯淵は襲われる痛みと快楽に悲鳴のような嬌声を上げ続けた。
夏侯惇は夏侯淵の悲鳴に満足げな表情を浮かべ聞き入る。
「ああ、やあっ、惇兄…ひうっ」
更に動きは激しくなっていく。
「俺と会わない間、誰にも触れさせてないようだな…」
「俺には惇兄しかいないのに意地悪なこと言わないでくれよ…」
「淵…すまない」
夏侯淵は泣きながら呟く。
自分には夏侯惇を愛しているし、他人に抱かれる事なんてありはしない。
彼しかいないのにどうしてそんな事を聞いてくる。
「俺は不安だった。ずっと会っていない間に淵が誰かのものになるのかもしれないと…」
「惇兄…」
「お前も不安だったのに会えなかったのに傷つけてすまない」
夏侯惇は夏侯淵を背後から抱きしめた。
「淵…愛している」
「俺も惇兄を愛してるよ…」
二人は再度気持ちを確認して安堵した。
互いに想っている気持ちが揺らぐことがなかった。
だから繋がっていられるのだ。
「淵…続けるぞ」
「えっ、あっ、待って…んああっ」
夏侯惇は夏侯淵の制止の声を無視して律動を再開する。
背後から犯され夏侯惇の性器が容赦なく夏侯淵を襲う。
痛みが薄れ快感が増し、夏侯淵は快楽の海に溺れていった。
久し振りに抱き合う行為が心地よく二人は飽きる事はなく幾度となく続けた。
夏侯惇が満足するまで夏侯淵は解放される事はなかった。
夏侯淵は行為の最中にも関わらず意識を落とす事となったとさ。
夏侯淵は夏侯惇の精を幾度となくその身に注がれた。
綺麗な衣装は精と汗の匂いに染まりグチャグチャであった。
夏侯惇は意識のない夏侯淵を抱きしめた。
このまま自分以外に触れさせるなら閉じ込めてしまいたくなる。
醜い独占欲がいつしかこの身体に牙を向けるかもしれない。
だが、今は薬による欲求は解放されたからいい。
「淵…愛してる」
夏侯淵に愛を呟くと夏侯惇は彼を口づけたのであった。






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