貴方が生を受けた神聖なるこの時(夏侯淵編)



※現代パロ


ベッドサイドのライトに二人の姿がうっすらと照らされ、乱れたシーツの中にシルエットをつくりだしている。
今はひっそりと静まりかえった部屋の中、夏侯惇と夏侯淵はお互いの体温をリアルに感じていた。
息遣いさえ聞こえてきそうに近くにいながら、夏侯淵は夏侯惇に背中を向けている。
無言で丸くなってそっぽを向いている夏侯淵の頬に手をよせ、夏侯惇は無理矢理その顔を自分の方へ向けた。

「…惇兄…っ」

少し怯えたような、困ったような表情で、じっと夏侯惇の顔を凝視する夏侯淵に軽く口付ける。

「どうした?妙才。そんな顔をして…」
「だって…」

夏侯淵は何かを言いかけたが、ほんのりと頬を染めると口をつぐんでしまう。
夏侯淵の困惑が、その表情からありありと伝わってくる。

「恥ずかしいんですか?お互いさまじゃないか」
「…ばか…っ」

夏侯淵は真っ赤になって、夏侯惇に抗議の視線を向けた。
今日は、夏侯淵の誕生日だった。
誕生日のお祝いをしようと、夏侯惇は夏侯淵を家に招きパーティを催した。
二人だけの時間は、楽しく過ぎていった。
夏侯惇の手料理を腹いっぱい食べ、用意されていたケーキでお祝いし、ワインで乾杯をした。
そして、今までお互い好きだという事に薄々気付きはしていたが、今一つ踏み込めずにいた曖昧な関係についにピリオドがうたれたのだ。
ロマンチックな雰囲気と、ワインの酔いも手伝ってか、二人は初めて深く繋がった。
夏侯淵には、何もかもが初めての事ばかりで、正直今だ困惑している。
けっして夏侯惇と深い関係をもってしまったことが嫌だったわけではない。
むしろその逆で、夏侯淵は心の中に幸福な気持ちが広がっていくのを身体中で感じている。
しかし、それとこれとは全くの別問題で、いくら嬉しいからと言っても、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
あの夏侯惇の繊細で美しい指に、身体の隅々までを愛撫され、雄雄しいものに貫かれ、嬌声をあげてよがっていた自分を思いだすと火をふくように恥ずかしい。
今更どんな顔をして夏侯惇と接したらいいものか…。
恥ずかしさのあまり、夏侯淵が布団に半ばもぐり込んで丸まっていると、無理やり夏侯惇の方を向かされた。
優しい口付けが、啄ばむように唇に降ってきて、夏侯淵は思わず瞳を閉じる。
視界は閉ざされていても、夏侯惇の行動は手に取るようにわかる。
さっきまで頬に添えられていた手が、徐々に首筋をたどって胸元の方に下がっていく。
次に夏侯惇が何を仕掛けようとしているのかも、夏侯淵は薄々感付いている。
それを本気で拒むわけでもなく、かといってこれ以上の事を求めているわけでもない。
気持ちが宙ぶらりんでどうしていいのかわからず、夏侯淵は俯きぎゅっと夏侯惇の胸にしがみつく。

「そんなに可愛い態度をとられると、またお前と繋がりたくなってしまうぞ…」

耳元で艶を含んだ夏侯惇の声がそう囁き、夏侯淵は一気に全身を真っ赤に染めた。
夏侯惇は夏侯淵を煽るように、わざと声を落とし顔を極限まで近付ける。

「もっともっと聞かせてくれ。お前のいやらしい声を…」

そう言うと、夏侯惇は夏侯淵の耳たぶを甘噛みした。
ぴくりと夏侯惇の身体が反応する。
夏侯淵は、恥ずかしくて恥ずかしくて顔も上げられず、声を出すどころか喋るのさえもためらって、本当に呼吸をしているのか心配になってしまう程の頑なさで口を閉ざしている。
すでに、散々夏侯惇に喘ぎ声を聞かれているという事は夏侯淵も承知しているが、だからと言って再び聞かせてやろうなどと思えるはずも
ない。
ほんの少し声を出すのにも、かなりの羞恥心を感じて、我慢すればするほどますます身体の方は神経過敏になっていくようだ。
激しく身体を開かれいるわけでもないのに、欲望の証がどんどん膨らんでいくのがわかる。
我慢すればするほど、身体は逆に興奮状態に陥っていく。
夏侯惇は、すらりと伸びた美しい指先で、夏侯淵の耳を優しく愛撫している。
ゆっくりと耳の形をたどっていると思えば、優しく耳たぶを揉みしだく。
神経過敏になっている今の夏侯淵には、こんなささいな刺激さえ大きな興奮をよぶ。
その中途半端な刺激に、ぎゅっと目を閉じて絶えていた夏侯淵が、いきなりピクリと身体を震わせた。

「ん!」

夏侯惇が夏侯淵の耳の中に舌を差し込んだのだ。

「や…め…惇兄っ」

夏侯淵の背筋がゾクリと刺激に粟立つ。
『もっと、もっと、刺激が欲しい』
夏侯惇のもどかしい愛撫に、いつの間にか夏侯淵も翻弄されはじめていた。
身体の奥に、欲望の炎が灯る。
『激しく貫かれたい』
欲望に濡れた茶色の瞳が、ゆっくりと夏侯惇の瞳を捕らえる。

「…元譲…きて」
「妙才…」

薄暗がりの中、二人のシルエットがゆっくりと重なりあった。
興奮も治まり、乱れた息も整ってきた頃、夏侯惇が思い出したように呟いた。

「そういえば、肝心な事をまだ言ってなかったな。誕生日おめでとう…」
「…こんな俺の事を祝ってくれる奴もいるんだな、と思うと嬉しいよ…」

夏侯淵のその言葉に、夏侯惇は一瞬辛そうに瞳を眇めた。

「妙才、たとえお前が自分の事をどう思っていようと、他人が何を言おうと、俺はお前が今日この世に生をうけた事を神に感謝する」

まるで、教会で神父に愛を誓うような神聖な表情で、夏侯惇は夏侯淵にそう囁く。
「…元譲…」

その言葉に、みるみる夏侯淵の瞳が涙で潤んでいく。

「妙才がここに在る事が、こんなに嬉しいぞ…」
「…元譲!」

すがりついてきた夏侯淵を、夏侯惇はしっかりと抱きとめた。

「…俺一人の我が侭かもしれない。でも、お前が何を望もうと、俺は妙才に生きてここに在ってほしい…」

夏侯淵の茶色の瞳から大粒の涙が一粒滑り落ちる。
それは、瞳の色に反射して、まるで琥珀のように美しく輝いてみえた。

「愛している、妙才」
「…俺…産まれてきた事を初めて認める事ができた気がする…ありがとう元譲」




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