すれ違う想い



かげかえのない存在はすぐ側にいる事を知らなかった。
どうして気付くのが遅かったんだろう。
離れてからやっと気付くなんて。
呆れる。
どうして…、気付かなかったんだろう。
真実はすぐ側にあったのに。
想いはすれ違う。
大切な貴方を不用意に傷付けてしまいそうで怖かった。
怖いのは嫌われると思ったから。
だから何も言えなくなる。
触れられない想いと心に。
止める術を知らない涙に。
こんなに貴方を愛しているのに。
どうして伝える事ができないの?
すれ違う心と想いに涙を流す。

「どうして泣いている…」

不意に掛けられた声に驚く。

「………!」
「何故、泣いているんだ?」

指で涙を拭った。

「父さん…」

知らない貴方は優しくしてくれる。

「俺でよければ相談にのる」
「ありがとう…」
「で、泣いている理由は何だ?」
「好きなのに想いを伝えられなくて…」

小さな声で話す。
なんとか聞き取れる範囲であった。

「大好きなのに、気付いてもくれない。こんなにも好きだと言っているのに」

夏侯覇は夏侯淵を見上げる。

「まさか、お前…」

夏侯淵は夏侯覇を傷付けているのに気付いた。
いつも抱きついてくる行為。
好きだと言ってくれる言葉。
それが恋愛対象のものだとは思わなかった。

「すまない、息子よ…俺は知らずに傷付けていた。そういう事にはうとくてな」

夏侯淵は夏侯覇を優しく抱き締める。

「ずっと好きて言っているのに、いつも流されてばかりで向き合ってもくれなくて辛かった」

大きな瞳は涙に濡れていた。

「許せ…」

夏侯淵は夏侯覇に口づけをする。
優しく触れるように何度も繰り返す。

「父さん、もっとして…」

まるで誘うような言葉。

「ああ、お前の望むままに…」

再度、唇が触れ合った。
嬉しい。
やっと触れ合った。
触れた場所が熱い。
もっと感じたい。
貴方が俺を愛している事を。
感じさせて。
愛していると囁いて。
「もう泣かないでくれ…」
「うん…」
「愛しているよ、息子よ…」
「大好きだよ父さん」
すれ違った想いは触れ合う。
もう哀しくはない。
愛しい人が側にいるから。





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